長期滞在者
昔一時期、ペンタコンシックスという東ドイツ製の中判カメラ(6×6)を使っていたことがある。ビオメターという名の標準レンズの写りが美しく、カメラのデザインもなかなかかっこよかったのだが、肝心のカメラボディが一癖も二癖もある大変な代物で、フィルム1本(12コマ)に1~2コマは必ず妙な露光ムラが出るとか(シャッター幕の走行に変な癖があるらしい)、そもそも露出自体安定しないとか、コマ間隔が適当でたまに重な…
長期滞在者
大阪と奈良を分ける二上山麓の小さな田舎町がぼくの一人暮らしのスタートでした。部屋は7畳半でグレーのパンチカーペットが引いてあるだけのただの四角い部屋で、北側に腰から上へ半間の窓が1枚。部屋の隅っこには申し訳程度の小さな流し台があってトイレは共同でした。それで家賃15,000円が安いのか高いのかよくわからないのですが、とにかくぼくはここで写真の勉強を始めることになりました。東京湾岸の埋め立て地で、植…
長期滞在者
「無限ホテル」をご存知だろうか。 「無限ホテル」はその名の通り、無限の部屋があるホテルだ。 ある日、「無限ホテル」に無限にある部屋は、すべて満室になっていた。 そこへ一人の男が部屋を求めてやってくる。 「無限ホテル」の支配人は、慌てずにこう言う。 『ご心配には及びません。1号室のお客様を2号室に、2号室のお客様を3号室に、とすべてのお客様を移動すれば、一つ空き部屋が出来ます。何せ、このホテルには無…
長期滞在者
一体全体、おれにどんなカルマがあるというのだろう、 と書き始めてみて、ふと思う。 この「一体全体」という言葉は一体全体どうして疑問文を強調するための副詞として使われているのだろうか。 というか、なんでこの言葉がそういう機能を持たされているのか、 見れば見るほど良く分からない。 検索してみても、その由来なんかは出てないようだし、 仕方ないので久しぶりに三省堂の新明解国語辞典を引いてみたが、 期待して…
長期滞在者
家の中にあるたくさんの本。日本に戻ってきたばかりのころは、本を増やすものかと思っていた。本だけじゃない、物も増やしたくなかった。でも、十年もいたら物も増えるし、本には本当にたくさんお金を使った。中学生のころから、ファッションやメイクには目もくれず、本と音楽ばかり。ものは増やさないと思っているくせに、本は買ってしまう。本を全部読んでいるわけでもないのに、本屋に行くとわくわくする。まるで、本の中には…
長期滞在者
若い人へ こんな書きだしではじめると、いかにも自分が歳をとったように感じます。研究者としては未だに若手とされますし、立派な中年になる覚悟が定まっているわけでもないにしても。放っておいても心身が回復し成長していく時期が過ぎ、「おぅ、あとは死ぬだけだなぁ」と体感したのが数年前。とはいえ、生きていることがいずれ訪れる消滅の瞬間へのカウントダウンだという事実は、年端も行かぬ子供であったころの中心的なテーマ…
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もうりひとみさん アパートメント当番ノート第13期/絵描き・絵本作家
長期滞在者
都心のあるホテルのラウンジの一角とか、大きなタワービルのエントランスに、写真集を含むアートブックがこれでもかと詰め込まれた棚が、空間装飾の一環として使われている場面を時々見かけます。あるホテルのそれは、本の選定から棚に収まる位置に至るまでデザイナーさんが、全部決めているのだそうです。ちょうど新人の従業員研修の場面に出くわして、先輩社員がそういう風に説明をしていました。主に、海外のファッションカメラ…
長期滞在者
年末から体調を崩して静養していて、 ふと気がついたら新年でしたw 新年あけましておめでとうございます。 そして、なんと年男であることにもふと気がついてガビーンとなった。 よくぞここまで生き延びたものである、とか、 よくぞここまで何者にも成らずに来られたものである、とか、 よくぞここまで人の迷惑顧みず勝手気ままにやってこれたものである、とか、 そういう感慨はひとまず来月やってくる誕生日にまで保留して…
長期滞在者
29年の人生の中で、最寄り駅への愛着って、実はいままで感じたことがなかった。だけど、この2年近く毎日のように通う最寄り駅は、わたしにとって初めての愛着ある最寄りの駅だ。 もちろん、東京で生活していたときも、群馬で生活していたときも、それぞれに最寄り駅はあった。だけど、いまの頻度とは、比べ物にならないほど利用回数は少なかったし、自分の行動範囲内にあるという感じは、正直あまりなかった。 いまの最寄りは…
長期滞在者
ここ10数年の間に私は何を失い何を得たのだろうかと考えています。若さを失い役割を得た、といった個人的なことではありません。とはいえ、この社会から何が失われ何が新たに現れたのかという社会学的な興味でもない。むしろ、私と社会のあいだをつなぐ領域において何が喪失され何が獲得されたのか。体感はしているはずですが、体感しているからこそ簡単には言葉にできない。そんな変化について書いてみたいと思います。 私と社…
長期滞在者
まばらなしるしをおいもとめてはまだらなしるべをのこしていく 記憶や経験に寄りかかって自分が感じたことを重んじるあまりに 目の前に見えていることまで軽んじてしまわないように 日常を紡いで 解いて 繋げて 連なる点が縁を結び 深く掘り下げる時がきた 世界からはいま 少し遠くなって せまいところにいるのかもしれない けれど 散在している私の跡が少しずつ地図になっていくようなことを感じている 開いてい…