長期滞在者
そうだむらの そんちょうさんが ソーダのんで しんだそうだ 「そうだ村の村長さん」詩:阪田寛夫 より どんよりとした空。ぽつぽつと雨が降り出した。開いたビニール傘にあたってははじける雨粒に、きりっと冷えたソーダ水を飲みたくなる。 子どもってなんであんなにソーダ水が好きなんだろう。コップに注がれるときのしゅわっという音。ぷちぷちとはじける泡は口に入れると踊りだす。甘いけどさわやか、カラフルな水はより…
長期滞在者
日本にいると忘れてしまいそうになるけれど、本来わたしたちはとても多様で、とても違っている。イギリスのヒースロー空港に着いたとき、肌の色もちがう、信じる宗教もちがう、バックグラウンドもちがう、そういう人種の多様性に驚いた。だけど、わたしだって本来そういう多様な組み合わせの中から生まれた一つの個。忘れたらいけないことを、日本の中にいるときには呆れるほど華麗に忘れてしまう。 最初は戸惑いすら覚えたそ…
長期滞在者
以前、先鋭的なポートレート写真家である大先輩K氏に、ぶしつけながら「ポートレートってそもそも何でしょう」と質問してみたら、K氏は 「撮られたいと思っている人を、撮りたいと思っている人が撮ること」 とシンプルに答えてくれた。シンプルすぎて奥深すぎる。 人が人を写せば何らかの人物写真は成立する。誰が誰を撮っても写真は残るが、「誰に撮られたい」と「誰を撮りたい」の「誰」と「誰」が一致すればそれは最強の引…
長期滞在者
数年前から地方都市をこまめに回ることを意識してやっているので、例えば新幹線の「のぞみ」が停車する各都市と東京の違いを考えると、まず最初に目につくのは、街路を行き交う外車の多いこと。地方ではあまり見かけない名もわからないクルマや、単にガソリンを喰いまくる怪獣ではないか、と思わせる不思議なものをしばしば見かける。ぼくの仕事場の前は、貸駐車場で、月々の家賃は5万5千円だという。10年前ぼくがここに仕事場…
長期滞在者
ちょうどよかったわ。いっしょに おやつをたべてって 『おまたせクッキー』より 小学生の頃、家庭訪問の時期が待ち遠しかった。学校から家庭訪問の日程表が配られると仲の良い子4、5人で集まって作戦会議を開く。14時半にともちゃんち、つぎはひろえちゃんちだね、と先生が各自宅を訪れる時間を確認する。学校から先生にぞろぞろくっついてみんなの家をはしごしたり、時には先回りして待ち伏せしたりと、先生にも親たちにと…
長期滞在者
5月はほとんどの時間を作陶に費やした。 1年ほど前に無謀にもホテルの食器を引き受けてしまい、散々な思いをしながらいろいろ学びもしたのだが、 1ヶ月前にまたかなりの数の食器の注文が来たので、1年前のトラウマを抱えながらもそれに取り組んでいた。 去年とは違い、自分が好きに使える工房があるので、楽になった部分もあるのだが、 場所が狭いので、成型の終わった器を乾燥させる場所を確保するのに手間取ったりもした…
長期滞在者
日々の仕事が忙しいと、日常生活のあれこれが疎かになる。わたしの場合、料理を作ったり、掃除をしたり、きちんとした睡眠をとるために必要なことができなくなる。こういうのはよくないと思いつつ、なかなか思い通りに仕事と生活の両立ができなくて困る。 5月は少しつらい月だった。ここ数ヶ月の疲れが溜まっていたせいもあるけれど、突如任された仕事に振り回されてしまい、右往左往。上司と同僚の間を右往左往。人と人との…
長期滞在者
* 夢の中でエレベーターに乗ってしまうと いつも強制的に別の夢に連れて行かれてしまう 夢の続きに戻れるだろうかと たまに 階数を思い出したり数えなおしたり エレベーターを乗り換えたりするけれど 知らない人たちが次々と乗り込んできては ぎゅうぎゅうと私を奥へ奥へと押し込む エレベーターが消えると それはもう あの夢の終わりでこの夢の始まり またいつかあの場所に戻ろうと かろうじて記憶の崖を霞め留め…
長期滞在者
父は、不機嫌を振りまくひとだった。楽しむことがわからないし、彼が楽しい時間は家族といっしょに過ごすときではなく、滅多に重ならない。そして、問題は、彼が何にムカついてるか(当時そんな言葉遣いはないが)、母の憶測ぐらいしかヒントがないことであった。母の意訳は、「彼女ひとりが一生懸命考えたあるべき家族ゾウ」である。もっとわかりにくくなっている。父の不機嫌が、わたしたちとは関係のないことを言ってくれた方が…
長期滞在者
関西に生まれたのでアンチ・ジャイアンツなのはデフォルトだとしても、小学生の頃から関西標準の阪神タイガースにも目もくれず、ロッテオリオンズ(当時)のキャップをかぶり、長じては南海ホークス(当時)のファンになった。 ソニーのウォークマン(もちろんカセットテープの時代だ)ではなくAiwaやAkai製を愛用し、大人になっても電化製品はすべてナショナル(当時)を避けた。 とにかく「その世界で一番」というもの…
長期滞在者
ぼくの仕事はギャラリーディレクターですが、今までの仕事の中で相当な割合を写真作家を志す方々との関わりに時間を割いてきたと思います。学校での講義や講評、ワークショップ、ぼくのギャラリー以外でも比較的キャリアの浅い人を対象にしたイベントに呼ばれることも多いことからも、周囲の写真業界の皆様からも同じようにぼくの仕事を観ておられるのかなと思います。そういった皆様と時間を共にさせていただきながらしばしば感じ…
長期滞在者
1800年、ウィリアム・ハーシェルは、太陽の光をプリズムに通し(100年前にニュートンが行った実験と同じように)七色のスペクトルに分けました。そして、七色それぞれの温度を測ってみました。紫、青、緑、と徐々に温度が上がり、一番端の赤色の光が最も高い温度を示しました。ハーシェルは、なんとなしに赤色のさらに外側、目に見える光のない部分の温度を測ってみました。なんと、その場所は目に見えるどの色の光よりも高…