長期滞在者
メリーゴーランド京都でやった、夏の個展が無事に終わって、次を描き始めたいのに空回りが続いていた。ただ疲れていて、励まされても誉められても、自分の中の部屋がどんどん狭くなる感じを何に喩えればいいのでしょう。大袈裟だが、これっぽっちも余裕のない自分があるだけだった。 わたしは、ちょうど逃げ出したリンゴのように母から逃げ出して、別の穴にストンと落ちる。アリスのウサギ穴に見立てたいところだが、母は、わたし…
長期滞在者
強く雨の降る朝、女子学生たちが乗った自転車が十台ほど次々と、全員学校指定らしい同じグレーに赤のラインのレインコートを着て、透明の傘を差して、ゆっくりと僕を追い抜いていった。 じっとり沈んだ湿度の中を、続々と通過していくグレーの集団の後ろ姿が幽玄で映像的にとても美しく、思わず大雨の中足を止めて見送った。 見惚れることしばし、彼女らが雨の向こうに遠ざかってから、あ、カメラ、と馬鹿な顔して僕は突っ立って…
長期滞在者
頭のなかでずっと廻っている言葉があって その答えが言い切れるものでないことに、後ろめたさを感じる 不足しているものを補うために 不足していないものを失っていることを 前に進むことだけが、正しいことじゃない たまには見失ってしまってるかもしれないものを確かめるために 前がどこなのか見えるとこまで、戻ってみてもいいと思うの 写真は現実の偽物 紙の上の過去 だからこそできることがあるんじゃないか と 見…
長期滞在者
大学を卒業したての頃、ぼくは出張撮影の会社に少しの間勤めていました。そのときに先輩から言われたことは、時間があったらネガを見ているように言われていました。はいりたてで諸先輩が撮影して来たフィルムの現像出しと、焼き増しの袋詰め作業等の雑用を素早く片付けながら、ネガカラーのオレンジ色越しに広がる明暗反転した世界を眺めていました。プロの先輩方が撮影したネガと「へたくそ」と呼ばれていた大学生の臨時のアルバ…
長期滞在者
やめたやめた、こんなものいくつも持っててもしょうがないんだから、もうネットオークションや蚤の市を漁ったりするのはやめたやめた、と何度思ったかわからないが、ついつい再燃してしまうのがカメラ収集癖である。そもそもぼくの人生は、初めて打ったパチンコでいきなり12万円も勝ってしまうとか、初めてやった空中ブランコで見よう見まねで中級者の技を繰り出してしまい、ジーニアスが現れたとその時一瞬だけ騒がれ、本人もそ…
長期滞在者
「おーい、スーパーヘックス、大きいヘックス、なみのヘックス、小さいヘックス。どのヘックスでもいいけど、いる?」(『ハロウィンにきえたねこ』より) 猫が1頭から3頭に増えたら、ここにもあそこにも猫猫猫だらけ、視線の先には必ず猫がいるような気がして仕方がない。誰かが常にうろうろし、私の視野の右から現れ左へ消えたかと思うとと突如下から現れ上へと飛び去る。珍しくいないな、と思う時には振り向くと、決まって3…
長期滞在者
世の中はすべて「えん」で結ばれている。望むとも、望まざるとも、出会うときには出会う。人の意思通りにはならない「えん」が今をつくって、そして未来の土台になっていく。今のパートナーだって、そして今の仕事だって「えん」のなせる技で出会ったもの。不思議だとは思うけれど、ここ最近、結びつきの妙を感じている。 思えば、今の仕事についたのも、必然だったのかもしれない。実家の山の草木をかきわけ、ある特定の植物を採…
長期滞在者
以前にも書いたけれど、写真は表面しか写らないから、間違っても誰かの「内面」的なものが写るとかそういう話は信じてはいけないのだが、内面どころか「その人の表面」すら写ってるのかどうか心許なくなることがある。 被写体になってくださった方々には甚だ失礼な言い方になるけれど、そこに誰が写ってるか、というのは実は大した問題ではないのだと思う。僕は誰かを写しながら、その人を撮っているのではないのかもしれない。 …
長期滞在者
もう夏も終わりだなって時に 新しくなったぼくの車で、友人たちとドライブに行った日 久々の晴れた空と海 水辺はいいなぁ 大好き 幸せ ここのところ、体調不良が続いていて 病院にばかり通っています。 思い当たることは、自分の中にあって 「負」が溢れそう。 身体はとても正直で 当たり前のように、訴えてくるけど 気力の限界って意外としぶとくて 耐えてる間に、また遠くにいってしまう。 深呼吸、深呼吸 それで…
長期滞在者
日々の仕事の中でとりわけ持ち込まれた写真を見ることは、ぼくにとって大事な仕事です。ぼくのギャラリーでの展示を目標に写真を持って来てくれる方々、実際にルーニィでの展示が決まっていて、その途中経過であったり、展示構成の打ち合わせの過程で作品を見せて頂くこともありますし、額装のお仕事で作品を拝見することもあります。ただ単に自分のやっていることがぼくのような写真を扱う立場の人間からどのように思われるのかを…
長期滞在者
お金というのが、もともとありとあらゆる商品になりうるものの中 に見出だされるだろう「価値」を抽出し、それをさらに再物質化し たものだったということであるならば、お金というのは要はあらゆ る商品の特質を抽象化してその中に取り込んでおこうとするものな のだということが出来るかもしれない。貪欲である。そして、交換 という行為と交換される物品やサービスがなければ全く無用の長物 のはずなのに、ただその間にあ…
長期滞在者
「ねこがいないんだ。子ねこでもいいからいたらいいのに。ねこのいないだんろなんて!ねこのいない家なんて!すぐにもねこを見つけなきゃ。子ねこだっていいんだから。そしたら家は、欠けたものなし!」 (『ピーターサンドさんのねこ』より) 煙猫と新居に引っ越してからひと月がたち、新・谷底の様子はというと、ここにも猫、そこにも猫、あそこにも猫、人も歩けば猫にあたる、そんな毎日だ。誰が言ったのかは知らないが、猫が…