長期滞在者
琵琶湖の浜で寝転んで、ゆっくり、ゆっくり何度も深呼吸するが好きだ。何も語らず、ただぼんやりと時間が過ぎるのを眺めながら、止まらない波音を聞く。目を閉じて、砂浜と秋の風の冷たさを感じる。 人と関わり合うことも、もちろん大事。だけど、ふたりぼっちで、静かに、ひたすら無口にたたずむのが、ほんとは一番好きだ。わたしたちには、必要以上の言葉はいらないから、互いの体温が空気ごしに伝わるくらいの距離感で、重力を…
長期滞在者
作品を創ることは 乾いた土に水を齎す、慈しい雨のようなもので 心が干涸びそうになっても どうか一滴でも雨を、と それは空を仰ぐように ぼくは作品に向かうのです —————————————————&…
長期滞在者
叙情、というのは多少因習的な色乗りのしてしまった言葉で、誤解されがちなんですが、僕は心動くもの、の総称としてざっくりと使っています。ざっくりしすぎですね。 今まで中村浩之さんとの二人展(『叙情寫眞』2009 )と自分の個展(『重力と叙情』2010 )のタイトルにしました。 別に「叙情」でなくてもいいんですが、他にしっくりくる言葉がないので、便宜的に仮りそめに使っているだけです。白状するならば、むし…
長期滞在者
とある事情でいま「写ルンです」が仕事場に100個届いておりまして、ぼくも1個使ってみました。あまり話題にもならないのですが、コンビニに行くと、「写ルンです」は、ほぼ間違いなく今でもコンビニに行けば買うことが出来ます。 早速仕事場の周りをちょっと写して回ろうと出かけたところ、15分もしないうちに、1本撮り終わってしまい、今2個目のパッケージを開けたところです。果たして何が写っているのか、ちゃんと撮れ…
長期滞在者
「ご賛成のかたは、右前足をおあげねがいます。(中略)反対のかたは、左あと足をおけりください。」 (『黒ネコジェニーのおはなし』より) 東京の地形は意外と起伏があり、谷のつく地名がたくさんあるのですが、夏が過ぎ去るのと同時に谷から新しい谷へと移り住みました。煙猫にとっては2回目の引越しです。さて煙猫は体つきは堂々としているのに気は小さくはにかみや、いつもおっとりくったりしてるのですが、移動はまったく…
長期滞在者
本庄早稲田には人がいなかった。駅の光だけが煌煌としていて、無人の駅の中、こんなところに新幹線はこないだろうと思った。車をおりて、母を抱きしめたとき、老眼鏡を使い始めた母の目が潤むのをみた。わたしは舌を噛んで、必死に堪えたけれど、母の顔を直視できなかった。わたしはあまりに無口な娘だ。父や母が望むような言葉を、何一つ残さなかったし、希望も残さなかった。無口で、不透明で、不安定な娘を、彼らはどうにか助…
長期滞在者
ヨーロッパの8月は学生だけでなく社会全体が夏休み気分である。 そういう気分に乗っかってのんびりしたかったのだけど、なかなかそうは問屋が卸さない。 やり残していた確定申告だとか、失業保険のための再登録手続きだとか、 飼っていたモルモット(羽左衛門)が急死したのでその葬式だとか、 人生初の運転免許講習だとか、水墨画の特訓だとか、相変わらずの作陶活動だとか、 今年一番忙しい月だったんじゃないだろうかと思…
長期滞在者
どんな言葉をつないでも どれだけ言葉をかさねても おそろしいことばかり思いついて 喉元から引き返してしまう では胃の腑に落とし込めるかなと 考えをめぐらせてぎゅうっと押したら おなかを突き破られちゃった ぽっかり口をあけた空洞には 時間を詰めてみるつもりだけれど 穴を塞ぐには当分かかりそうだよ
長期滞在者
仕事の移動中に昼食を摂る時間がなかったのでコンビニエンスストアでおにぎりを買った。コンビニおにぎりといっても最近はなかなか馬鹿にできなくて、 けっこう凝ってて美味いものも多い。買ったのはゴボウと鶏肉がゴロゴロ入った鶏牛蒡飯。僕はゴボウが好きなのだ。 が、切符を買い時刻表を見てあれこれ考えながら駅のホームへのエスカレーターを上っているうちにいつの間にか手の中におにぎりがない。何のことはない、無意識の…
長期滞在者
ぼくの父方の祖父は、その当時は教師だった そして母方の祖父は、その当時は銀行員だった どちらも戦争には行っていない 昭和20年、父5歳、母2歳 父の住む町は、京都に近いこともあり B29が飛び交う空を見上げることはあっても、空襲にあったことはなかった 母の住む町は長崎にあって 軍事工場が多いので危ないという噂から、佐賀県に疎開したのだという 父の住む家は、畑もあったし田んぼもあったし 庭にはポポー…
長期滞在者
先日新宿のエプサイトで写真を売るということをテーマにしたレクチャーをさせて頂きました。35度越えの猛暑の真っ昼間だというのに、後ろの方で立ち見もでているくらいお越し頂き大変ありがたいと思いましたが、このようなテーマのトークショーに興味を持たれる方がこんなにもいるのか、ということも驚きでした。 最近写真を売る買うを始めとしたファインアートフォトグラフィーの仕事の様子についてお話をして欲しいという依頼…
長期滞在者
2週間ほど前に、映画製作に携わっている友人から連絡があり、と ある短編映画に出演する若い役者たちの動きをコーチしてもらえな いかと相談があった。映画の現場には興味があるので面白そうなの でやってみる事にして、2日前にその撮影が終わった。 ストーリーは至ってシンプルで、暇を持て余している二人の若者が 田舎道沿いの塹壕跡で原チャリを乗り回しているときに、たまたま 通りかかった女の子に声をかけるのだけど…