長期滞在者
ギャラリーの仕事をしている以上、作品を売るのも仕事の一部です。ただし、ギャラリーはモノの売り買いの場である以前に、作家さんにとっては作品発表のための大切な場でもあります。 生きる、という部分では必ずしも必要とされないものを買って頂くには、お客様の心を動かす何かが必要で、そのためにはやっぱり売る側の気持ちが大切です。安易に「これ、いいでしょう」「超、良くないですか?」と自分たちの価値観を押し付けると…
長期滞在者
きみが うえに なってる たまごは、 おさらのうえから、 へんなめで じっと にらんでるみたいだし、 きみが したになってるのは、 うつむいて じっと まってるみたいで、 いやなんだもん。(『ジャムつきパンとフランシス』より) この世で一番好きな食べ物はと聞かれたら、私は迷うことなく「たまご」と答える。玉子料理ではなく、たまごである。たまごの存在が目に見え舌にはっきり感じられるもの―たまごかけご飯…
長期滞在者
2014年も、あと残すところ一ヶ月。こんなにはやくときが過ぎるなんて…… 二十を越えてから驚くほど時間がはやく感じられる。時計の針の動きがはやまってるんじゃないの?そう思えてくるほどだ。 12月は忙しくなる。仕事の面でもそうだし、メンタル面でもいろんな変化があるだろうことが予測できる。12月30日には、父と弟がブラジルへ帰国することが決まっている。母は先月、一足先にブラジルに戻った。家族と別の…
長期滞在者
十数年前、最初に脳腫瘍が見つかったのは自覚症状が出たわけでもなく本当に偶然だった。 このことは本題ではないからさっくりとお話しすると、あるお天気のよい日、都内某公園のベンチで横になり日向ぼっこ兼昼寝をしていた私は熟睡しすぎて本気の寝返りを打ちベンチから落ちてしまい、しこたま左頭部を石畳に強打してしまったため顔がお岩さんのように腫れあがり病院に向かうことになった。 「あー、こめかみにヒビ入ってるねー…
長期滞在者
メリーゴーランド京都でやった、夏の個展が無事に終わって、次を描き始めたいのに空回りが続いていた。ただ疲れていて、励まされても誉められても、自分の中の部屋がどんどん狭くなる感じを何に喩えればいいのでしょう。大袈裟だが、これっぽっちも余裕のない自分があるだけだった。 わたしは、ちょうど逃げ出したリンゴのように母から逃げ出して、別の穴にストンと落ちる。アリスのウサギ穴に見立てたいところだが、母は、わたし…
長期滞在者
強く雨の降る朝、女子学生たちが乗った自転車が十台ほど次々と、全員学校指定らしい同じグレーに赤のラインのレインコートを着て、透明の傘を差して、ゆっくりと僕を追い抜いていった。 じっとり沈んだ湿度の中を、続々と通過していくグレーの集団の後ろ姿が幽玄で映像的にとても美しく、思わず大雨の中足を止めて見送った。 見惚れることしばし、彼女らが雨の向こうに遠ざかってから、あ、カメラ、と馬鹿な顔して僕は突っ立って…
長期滞在者
頭のなかでずっと廻っている言葉があって その答えが言い切れるものでないことに、後ろめたさを感じる 不足しているものを補うために 不足していないものを失っていることを 前に進むことだけが、正しいことじゃない たまには見失ってしまってるかもしれないものを確かめるために 前がどこなのか見えるとこまで、戻ってみてもいいと思うの 写真は現実の偽物 紙の上の過去 だからこそできることがあるんじゃないか と 見…
長期滞在者
大学を卒業したての頃、ぼくは出張撮影の会社に少しの間勤めていました。そのときに先輩から言われたことは、時間があったらネガを見ているように言われていました。はいりたてで諸先輩が撮影して来たフィルムの現像出しと、焼き増しの袋詰め作業等の雑用を素早く片付けながら、ネガカラーのオレンジ色越しに広がる明暗反転した世界を眺めていました。プロの先輩方が撮影したネガと「へたくそ」と呼ばれていた大学生の臨時のアルバ…
長期滞在者
やめたやめた、こんなものいくつも持っててもしょうがないんだから、もうネットオークションや蚤の市を漁ったりするのはやめたやめた、と何度思ったかわからないが、ついつい再燃してしまうのがカメラ収集癖である。そもそもぼくの人生は、初めて打ったパチンコでいきなり12万円も勝ってしまうとか、初めてやった空中ブランコで見よう見まねで中級者の技を繰り出してしまい、ジーニアスが現れたとその時一瞬だけ騒がれ、本人もそ…
長期滞在者
「おーい、スーパーヘックス、大きいヘックス、なみのヘックス、小さいヘックス。どのヘックスでもいいけど、いる?」(『ハロウィンにきえたねこ』より) 猫が1頭から3頭に増えたら、ここにもあそこにも猫猫猫だらけ、視線の先には必ず猫がいるような気がして仕方がない。誰かが常にうろうろし、私の視野の右から現れ左へ消えたかと思うとと突如下から現れ上へと飛び去る。珍しくいないな、と思う時には振り向くと、決まって3…
長期滞在者
世の中はすべて「えん」で結ばれている。望むとも、望まざるとも、出会うときには出会う。人の意思通りにはならない「えん」が今をつくって、そして未来の土台になっていく。今のパートナーだって、そして今の仕事だって「えん」のなせる技で出会ったもの。不思議だとは思うけれど、ここ最近、結びつきの妙を感じている。 思えば、今の仕事についたのも、必然だったのかもしれない。実家の山の草木をかきわけ、ある特定の植物を採…
長期滞在者
以前にも書いたけれど、写真は表面しか写らないから、間違っても誰かの「内面」的なものが写るとかそういう話は信じてはいけないのだが、内面どころか「その人の表面」すら写ってるのかどうか心許なくなることがある。 被写体になってくださった方々には甚だ失礼な言い方になるけれど、そこに誰が写ってるか、というのは実は大した問題ではないのだと思う。僕は誰かを写しながら、その人を撮っているのではないのかもしれない。 …