長期滞在者
はじめて海外で作品が売れたときのことを覚えている これはNYのアートフェアでカップルが買っていったって – – これはコロンビア大学の麻酔科医のところに – – – 意識してアウトラインをひかなくなった 輪郭なんて曖昧なものだから 私と世界が交流している限りは —- —– 増殖しては結びついて こと が…
長期滞在者
東北 I 県の T 知事にツイッターで無邪気な質問が飛んだ。 「知事は若い頃、聖子ちゃん派でした? それとも明菜ちゃん派?」 T 知事は答えた。 「戸川純派です」 読んだ瞬間、もう I 県に引っ越そうかと思ったね。 僕の住む H 県の知事は、大河ドラマ『平清盛』の濃度の乗った重厚な映像表現を見て「海が汚い」と文句を言った男だし、隣の O 府の(元)知事は文楽劇場なんか要らないと吐き捨てた輩である。…
長期滞在者
この題名を打ち込むときに「曇のち雨」が「曇のち飴」に変換されたのを見て、たとえ本当に飴が降ってきても曇り空からではあんまりわくわくしないだろうな、とぼんやりと思った。 パリの冬はグレーだ。 色というものがない。 今年は暖冬で雪も降らなければダウンジャケットさえ着る必要がないので、それだけが救いだ。 一年だけ住んだドイツの冬は暗くて寒くて、思い出しただけでも鬱々としてしまうくらいだったのだから。 寒…
長期滞在者
2月に入ると、ぼくの仕事場は卒業制作のための額装の仕事でフル稼働になる。この仕事は、応対の件数が多く、点数は少なく、大抵の人がプリントの完成がギリギリ、という感じで、ぼくもこの仕事を始めてもうすぐ20年になるけれど、昔も今も学生のやることはあまり変わらないなぁって思います。 額装をする時にまず一番最初にやることは、お預かりしたプリントの画面サイズを全て計測することです。画面は必ず縦横4四辺全部測り…
長期滞在者
前回同様、締め切り直前の早朝である。本来、何か書くときには大体一週間前からちょっとずつ準備して書くようにしているのだが、前回同様、ドトーの様な一ヶ月をなんとか溺れずに乗り切っているうちに、あ、明日月初めの月曜日じゃん…、となったのであった。そうはいいながら、早寝早起きを旨としているぼくとしては昨日の夜はさっさと寝ることにして、早朝水泳の前にささっと書いてしまおうという魂胆なのである。 去年の年末に…
長期滞在者
そこにも ねこ、あそこにも ねこ、 どこにも、かしこにも、ねこと こねこ、 ひゃっぴきの ねこ、 せんびきの ねこ、 ひゃくまんびき、一おく 一ちょうひきの ねこ 本日は2月2日、にゃんにゃんにゃんの猫の日には2が1つ足りませんが、猫の日前哨戦といきましょう。 とかく猫好きというものは、そこに猫がいると我を忘れるものらしい。道端で寝ている猫を見つけてはしゃがみ込み、塀の上に手を伸ばし、上級者ともな…
長期滞在者
昨年の大晦日、伯父の家に集まって年越しをした。久々に会った伯母に、Keikoちゃんと呼ばれたとき、あぁ、この人はわたしが言ったことを、いまでもずっと守ってくれているんだ、と思いながら、恥ずかしさと言いようのない居心地の悪さに駆られて、その場から逃げ出したい気持ちになった。 海外では、ある人物にちなんでその人と同じ名前をつけることがある。例に漏れず、わたしにもそのようなミドルネームがある。わたしが生…
長期滞在者
なかなか進まないことと 反面 勝手に恐ろしい速さで見えてきてしまうことと ぐるぐる周りながら 巻き込み巻き込まれ 吸い込み吐き出して 自分自身で作った渦なのに翻弄されてしまうことばかりだけど 目をまわしながらもかろうじて見つめる先は一点に かすかに光を感じるあの方角へ定めるように 吸って 吐いて すって はいて 気も狂わんばかりに 外気を求めても 身体に取り込むことができるのは その中のごくごく一…
長期滞在者
十年くらい前の話、例のUFO研究家の某Y氏が『カラスの死体を見ないのはなぜ?』とかいう本を書いていて、それが間違って紀伊国屋の生物学の棚にあったもんだから、大まじめな生態学の本だと思って立ち読みした。そしたらカラスの体は死んだ瞬間に一瞬で消えるのだとか何だとか、トンデモなことが描いてある。なんじゃこりゃ、と思って背表紙を見て著者名に気づく。あーあ、もう。紀伊國屋の店員も何を間違えてるんだか。 あほ…
長期滞在者
初めて「お話」というべきものを書いたのは小学4年生の頃。 それはこんな風だ。 ”主人公の「わたし」は醜い女の子で、両親は美しい顔立ちをしているのになぜ、と悩む日々を過ごしている。 ある日「わたし」は思い立って母親のいない隙にこっそりと、「ママ」の化粧水やら美容クリームやらを顔に塗りたくった。 するとどうだろう、見紛うほどの美人に変身したではないか” 「醜い」の箇所を「ブス」、「するとどうだろう」は…
長期滞在者
年末に、写真研究家の鳥原学さんが「日本写真史」という上下巻の本を出版されました。幕末維新から2010年代初頭まで、日本に限定した写真の通史を綴るという今までには無かったテキストです。ぜひ皆さんも読んでみて下さい。鳥原さんは、ぼくよりも一回り年上で20年来お世話になっている方なんですが、あるときぼくに、写真以外の趣味を持つことを勧めて下さいました。 料理など特に良い、と言うのです。 先日この出版記念…
長期滞在者
岡山から関西国際空港へ向かうバスの中で書いている。 ちょうど一ヶ月前に、ベルギーを訪れていた世界的陶芸家のTさんの通訳兼アシスタントとして10日間の予定でうちを出たのだが、そのうち実家から母が入院したとの連絡が入り、急遽帰国を決め、出先からそのまま日本に来たのだった。 陶芸家のTさんとの出会いは、とても強力だった。あらゆる言葉が正直に語られ、あまりにも純粋であるがために、ぼくにとってそれらは時には…