長期滞在者
この連載のレビュアーをしてくれている藤田莉江さんから、興奮気味に連絡があって、「今、何必館でやってる展示見ましたか !?」「良いと噂は聞くけど、忙しくて京都まで行く暇がない」「ここ数年で一番いいもの見ました。行った方がいいですよ!」フィンランドの写真家ペンティ・サマラッティの写真展で、来週12日までだから何とか行って! と言われても、毎日夜遅くまで残業の上、休みまで返上しがちな繁忙期である。春の撮…
長期滞在者
4月、5月と出張が続いている。 思わぬ出会いがあったり、緊張感と達成感が背中合わせだったり、ゆっくりする時間が持てていなかったり、逆に出張のテンションよろしく休日も有意義に使えたりと、よいか悪いか分からないまま、1日1日がどんどん過ぎていく。 瀬戸内には瀬戸内の時間が流れ、八ヶ岳山麓には八ヶ岳山麓の時間が流れ、三河には三河の時間が流れる。 出張の往路は落ち着かず、帰りは気が大きくなる。 忙しさにか…
長期滞在者
15年間維持した自宅の暗室を、とうとうなくすことにした。15年とはいうものの、フル稼働していたのは最初の5~6年くらいで、最近は年に1~2度使う程度になっていた。年に数度しか使わないなら、つぶしてしまって必要なときはレンタル暗室に行けばいい。頭ではわかっていたが、実行するとなるとなかなか決心はつかなかったのだ。 たった3畳の狭い暗室で、四切までのプリントしかできなかったが(相当無理して半切まで)、…
長期滞在者
つづき 本堂の手前まで来ると、母は「ちょっとここで待っといてくれへん」と言った。 「ええよ」 そのまま立っていてもやり場に困るので、母が本堂の中に入るのを見届けると直ぐに靴を脱いで、本堂に上がっていった。 本堂の中では、多くの人達が祈っていた。 人が祈っている現場を長く見ていると罰が当たると思い、長い廊下を歩いた。 廊下ですれ違う人達と会釈をしながら、まるで幼い頃から毎年ここに通っているかのように…
長期滞在者
日の落ちた後の淀川の堤防を、下の側道から見上げていた。土手の上、青い闇の中に遠く人影がひとつ見えたので、首から下げていた一眼レフでその人物にピントを合わせてみる。マニュアルフォーカスのレンズだったので、指を動かすとゆっくりとその青闇のぼやけた中から、ファインダーの像面に人影が立ち上がってくる。人物は闇に溶けかけており、遠い土手の上で縮尺も定かでないが、なんとなくの体型で男の人のようである。ファイン…
長期滞在者
1997年8月30日。インディーズ時代から大好きなバンドが初めて日本武道館でワンマンライブを行った。ずっと日本武道館の実現を応援して、彼らの夢が現実になったその夜は胸がいっぱいだった。 同時に、自分がまだ果たせていない私の夢を必ず叶えようと思ったその帰り道、まだ持ち始めたばかりの携帯電話が鳴った。電話から伝わってくる声はこう告げた。「大阪に来ませんか?」と。 2022年3月27日。ネモフィラの青い…
長期滞在者
「今度、奥多摩の宿坊行こうよ」と久々にYからグループLINEに連絡があり、高崎在住のTも含めた3人で宿坊に泊ることになった。 遠い先の予定を決めることがもともと苦手だったが、気心の知れた大学時代の友人なので、あまりプレッシャーとなることもなく当日を迎えられた。 普段、奥多摩方面に行く機会がなかなか無いので、待ち合わせ時間の前に、拝島に住んでいる大学時代のサークルの後輩Kと久しぶりに朝会うことにした…
長期滞在者
まずは修行僧2月分から何枚か。 ・・・・・・ 四六時中カメラを持って写真を撮る人間であるから、僕はそういう部分ではマメな性格であるといえる。写真というのは撮るばかりではなく、選び、編むことに膨大な時間を要する。マメでないとできない。けれども、それと相殺するように、僕は不精な部分はかなり不精で済ますことが多い。 僕と同じ職場の人は僕が年がら年中同じスタンドカラーの黒シャツを着ていることを知っている。…
長期滞在者
「なんでそんな危ない国に行くの?」「そんなことをして何になるというの?」 私がUNHCRを通して難民支援活動を始めてから、何度も言われてきた言葉だ。「難民? なんだか難しそうでよくわからない。」「遠い国のことを心配するより、自分の国のことでしょう?」そのたびに、丁寧に今世界で何が起きているかということを伝えてきた。 もっと関心を持って欲しい、知って欲しいとずっと思って、私は今日まで15年近く活動を…
長期滞在者
かま・ける【▽感ける】 の解説[動カ下一][文]かま・く[カ下二] あることに気を取られて、他のことをなおざりにする。「遊びに―・けて勉強がおろそかになる」 休みにかまけて、小田原に遊びに来た。 車が運転できないので、駅から諸々徒歩で回れる小田原は何不自由無く過ごせる観光地だ。 駅を降りたって小田原城の方に歩いていく。前回来た時にはまだオープンしていなかった小田原市観光交流センターの中に入っている…
長期滞在者
先月書いた写真修行僧の話。毎月1冊、その月に撮った写真だけで写真集を作り、年12冊を完遂するというミッション。1月号( A5サイズ96頁 )はすでに数日前に本が完成してビーツギャラリー* に納めた。もう設置され閲覧できるので、ぜひぜひご覧ください。後半になってきたら苦しいんだろうけど、まだ最初の月だから楽しい。 せっかく毎月1冊なんて特別なことをするのだから、いつもとは違うことを織りまぜてみようと…
長期滞在者
年末年始に帰省した時に訪れた奈良県大宇陀エリアの写真を使って文章を書きたくなり、訪れたスポットを繋いだ創作を1つ。 【創作:何がなんでも奈良】 「奈良にでも行かへん」 年末年始に実家に帰ってきても友人と会うでもなく、遠出するわけでもない僕を見かねて、母が言った。 「なんで奈良なん」 「普段あんま行かへんし、こういう時にええんちゃうかと思って」 「こういう時ってなんやねん。まぁええわ、行ってみようか…