展示スペースの中に入る手前に、もうひとつの小さな展示空間として「リコメンドウォール」というスペースを設けています。小伝馬町の移転後に新たに設けたスペースで、小さな棚と4.8mの壁を使って、毎月一人の作家さんを特集するというコンセプトです。
このスペースの良い点は、コンパクトなスペースゆえに、低予算でありながら、良質な作品を長期間にわたり展示することで、確実に作品のこと、作家さんのことをお伝えすることができることです。そして本棚で背表紙しか見せられなかった本が、きちんとお顔を見せてあげることで、人の手にわたりやすくなります。本格的な書店スペースを持てない事情もあり、このスペースで毎月コンスタントに書籍や展示作品が売れていくのは、作家さんも僕たちにとってもとても助かることなのです。
ここのスペースは、通常の展覧会のDMハガキとは違って、名刺判の極小カードを作って配布しています。
都内の他のギャラリーではなく、近隣の飲食店、物販点、ホステルなど、それぞれのレジ横にショップカードを置く一角にリコメンドウオールのカードを設置してもらい、主に近隣に滞在する方々をターゲットに動いています。
アートファン、写真ファンには既知のことであっても、この地域の人たちにとっては、新鮮な出会いでもあり、だからこそ作品を間に豊かな対話の時間を持つことができるようになりました。
この作品は誰が作ったものなのか?いつ頃制作したもので、今までどのようなことに関心を持ち、今はどのようなことをしているのか?
足を運んでくださる方々も、皆さん思い思いの感想を伝えてくれます。時には意外性に富んだリアクションから逆にぼくたちの方が学ばせていただくことも多々あります。
この壁の前でお客様と接している時、このささやかなスペースであっても、真っ当なギャラリーとしての仕事に打ち込んでいるという実感と、手応えを感じます。もっと遠くへ、もっと多くの人々へなにかを届けたいという思いもありますが、その前にこの場所からしっかりと、作家さんの思いを手渡していく感覚を大切にしていきたいです。
去年ごろから、ギャラリーの役割について、作家さん、社会との関わり方について、大きな転換点が来ているという実感を持っています。すでにぼくのようなやり方はオールドスクールになりつつあることは自覚していて、今後の自分の居場所は自分で創造していかないと、出版記念のイベント会場として当座をしのぐくらいしか今のスタイルでは生き残れないとも思っています。
できることはまだまだあるはずだと、信じながら、既成概念にとらわれずに、新しい試みにチャレンジしていきたいと思っています。