長期滞在者
日の落ちた後の淀川の堤防を、下の側道から見上げていた。土手の上、青い闇の中に遠く人影がひとつ見えたので、首から下げていた一眼レフでその人物にピントを合わせてみる。マニュアルフォーカスのレンズだったので、指を動かすとゆっくりとその青闇のぼやけた中から、ファインダーの像面に人影が立ち上がってくる。人物は闇に溶けかけており、遠い土手の上で縮尺も定かでないが、なんとなくの体型で男の人のようである。ファイン…
長期滞在者
1997年8月30日。インディーズ時代から大好きなバンドが初めて日本武道館でワンマンライブを行った。ずっと日本武道館の実現を応援して、彼らの夢が現実になったその夜は胸がいっぱいだった。 同時に、自分がまだ果たせていない私の夢を必ず叶えようと思ったその帰り道、まだ持ち始めたばかりの携帯電話が鳴った。電話から伝わってくる声はこう告げた。「大阪に来ませんか?」と。 2022年3月27日。ネモフィラの青い…
長期滞在者
「今度、奥多摩の宿坊行こうよ」と久々にYからグループLINEに連絡があり、高崎在住のTも含めた3人で宿坊に泊ることになった。 遠い先の予定を決めることがもともと苦手だったが、気心の知れた大学時代の友人なので、あまりプレッシャーとなることもなく当日を迎えられた。 普段、奥多摩方面に行く機会がなかなか無いので、待ち合わせ時間の前に、拝島に住んでいる大学時代のサークルの後輩Kと久しぶりに朝会うことにした…
長期滞在者
まずは修行僧2月分から何枚か。 ・・・・・・ 四六時中カメラを持って写真を撮る人間であるから、僕はそういう部分ではマメな性格であるといえる。写真というのは撮るばかりではなく、選び、編むことに膨大な時間を要する。マメでないとできない。けれども、それと相殺するように、僕は不精な部分はかなり不精で済ますことが多い。 僕と同じ職場の人は僕が年がら年中同じスタンドカラーの黒シャツを着ていることを知っている。…
Do farmers in the dark
今回は小説が書きたくて、平和な世界でピッケル型固形コニャックが当面のあいだずっと手に入り続けている世にも幸運な男のファンタジーを書きました。読む人に徒労と退屈をすごく与える文章になっています。ではよろしくお願いします! セルジィ、ある一日 おい、セルジィをとってくれ。セルジィを!(セルジィ=ピッケル型固形コニャックの事) 今日もまたバッポスの旦那は妻のベルンパスに言った。 バッポスは禿げて太った、…
長期滞在者
「なんでそんな危ない国に行くの?」「そんなことをして何になるというの?」 私がUNHCRを通して難民支援活動を始めてから、何度も言われてきた言葉だ。「難民? なんだか難しそうでよくわからない。」「遠い国のことを心配するより、自分の国のことでしょう?」そのたびに、丁寧に今世界で何が起きているかということを伝えてきた。 もっと関心を持って欲しい、知って欲しいとずっと思って、私は今日まで15年近く活動を…
長期滞在者
かま・ける【▽感ける】 の解説[動カ下一][文]かま・く[カ下二] あることに気を取られて、他のことをなおざりにする。「遊びに―・けて勉強がおろそかになる」 休みにかまけて、小田原に遊びに来た。 車が運転できないので、駅から諸々徒歩で回れる小田原は何不自由無く過ごせる観光地だ。 駅を降りたって小田原城の方に歩いていく。前回来た時にはまだオープンしていなかった小田原市観光交流センターの中に入っている…
長期滞在者
先月書いた写真修行僧の話。毎月1冊、その月に撮った写真だけで写真集を作り、年12冊を完遂するというミッション。1月号( A5サイズ96頁 )はすでに数日前に本が完成してビーツギャラリー* に納めた。もう設置され閲覧できるので、ぜひぜひご覧ください。後半になってきたら苦しいんだろうけど、まだ最初の月だから楽しい。 せっかく毎月1冊なんて特別なことをするのだから、いつもとは違うことを織りまぜてみようと…
長期滞在者
年末年始に帰省した時に訪れた奈良県大宇陀エリアの写真を使って文章を書きたくなり、訪れたスポットを繋いだ創作を1つ。 【創作:何がなんでも奈良】 「奈良にでも行かへん」 年末年始に実家に帰ってきても友人と会うでもなく、遠出するわけでもない僕を見かねて、母が言った。 「なんで奈良なん」 「普段あんま行かへんし、こういう時にええんちゃうかと思って」 「こういう時ってなんやねん。まぁええわ、行ってみようか…
長期滞在者
調べてみたら去年(2021年)は年末のギャラリー・ライムライトの『モノクロベスト2021』にしか写真展というものに出展していなかった。では一番最近の大きな展示といえば何かと考えたら、なんと3年前(2019年2月)の藤田莉江さんとの二人展『Strangely beautiful』が最後なのだ。2020年に大阪ブルームギャラリーのイベントに出展しているが、これは壁面展示もあったけどポートフォリオ展示が…
長期滞在者
今年最初にマイクの前で声を発したのは、レギュラーラジオ番組、練馬放送「Voice of Heart」だった。 2022年1月6日。東京は4年ぶりの大雪だった。この日に収録を行う他の番組のパーソナリティは全て収録を延期していた。 けれども私はスタジオに向かった。番組の準備を詰め込んだリュックサックには、届いたばかりのnuriéの最新シングル「RooM-6」を入れた。1月5日にリリースされたこのシング…
Do farmers in the dark
今回も申し訳ないですが文章を載せます。ではよろしくお願いします! ビルの中で 前々から散々言っているが、私は固い固いビルの中の会社で働いている。多分20階くらいあるのではと思うけど、正確に何階建てか分からない。色は銀色で。もしかしたら銀色ではなく、ツヤ消しの黒だったかも。そんなビルで、働いているんだよ。 ビルの中の廊下を歩いている。とても照明を絞っているように感じる。照明を絞る事は流行りなのか。薄…