2011年の夏に出くわしたカリウドバチの狩り。写真を見返すと狩人はヒメベッコウの一種、獲物はオニグモの一種らしい。
カリウドバチ(狩人蜂)と呼ばれる一部のハチは、他の虫を狩ってそこに卵を産み付ける。彼ら(彼女ら)の狩りは、生かさず、殺さず。いずれ生まれてくる幼虫の食糧になる獲物の鮮度を損ねてはならないと、毒針の一撃で仮死状態にして生かしたまま巣穴に引きずりこむ。生きながらにしてじわじわ食われる哀れな獲物になるのはガの幼虫やクモで、ハチの種ごとに大体決まっている。
『攻殻機動隊』には、ハエトリグモをモデルにした身軽な多脚戦車と、カリウドバチをモデルにした対戦車ヘリが登場する。テレビシリーズの、その名も「天敵」というエピソードは、その両者の攻防が最大の見せ場。建物の間を三次元的に逃げていく戦車をヘリが猛スピードで追いかける。疾走感が心地好くて作画も安定した、クオリティの高い回だった。
後になって、それを本物のハチとクモが演じるのを目の当たりにする。2011年の夏のこと、場所は鳥取県の山の中、「さじアストロパーク」。建物の入り口で涼んでいると、柱の目の高さぐらいから、何やらモヤモヤとした小さな毛玉のような灰色の塊と黒い羽虫がけたたましく絡み合いながら壁を伝って転げ落ちた。地面でもつれ合うそれに顔を近づけてみて、小さなカリウドバチとクモなのだと分かった。ハチはクモを刺すように何度も腹を曲げ、クモは長い脚をばたつかせてハチから逃れようとするのだけれど、すぐに追いつかれてまた攻撃に遭う。そして何度目かの攻撃の後、ついにクモは脚をたたんで動かなくなった。一緒にいた妻に「これは生きたまま餌にされんねん、これから巣穴に運んで行くんやで」と言っていると、まさにハチは獲物を引きずり始めた。
逃げるクモの慌てふためく姿が目にまざまざと焼き付いている。クモに私たちと同じような意思があるかと言えば、きっとない。でもその姿には「生きよう」とする強い意志が満ちているように見えた。そしてそれは狩る側のハチとても同じ。ファーブルや今森光彦の昆虫記の中の物語でしかなかったこの不思議な生態と激しい命のやりとりを、この世界で現実に生き物たちが演じているものとして初めて目にして、何か自分の知らない世界の扉が開いたような気がした。