当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 11 前日、ランパーン県で学生に日本語を教えているという友人の家に宿泊させてもらった。そしてこの日、なんとその教え子のお母さんが目的地の地獄寺まで車で送ってくれるというので、お言葉に甘え連れていってもらうことにした。タイで地獄めぐりをしているとこういうことがたまにある。見知らぬ私を100%の善意で送ってく…
長期滞在者
今月の頭に、引越しをした。 空っぽになった部屋をiPhoneのカメラに収め、2年半ほど住んだ家を後にする。新しい家は、自転車でわずか5分ほど。そんな近い場所に、更新でもないタイミングで引っ越したのは、恋人と一緒に暮らすためだった。 同棲は楽しみな半面、不安もあった。相手のこれまで見えなかった部分も目につきやすくなるだろうし、一緒にいる時間が長いぶん、ちょっとした行き違いをやり過ごせなくなる。ものす…
当番ノート 第35期
こんばんは!この週末は、藍の栽培と染めなどを行う歓藍社での活動で、福島県の大いなる田舎、大玉村に行っていました(大いなる田舎は村が掲げるキャッチコピー。渋い)いずれの回でも書ければとは思っていますが、村での暮らしは本当に創意工夫に溢れていて楽しい。農家やクリエイターを中心とした村での一連の活動に参加している人たちの、長年の英知に支えられた、機動力の高さ、人付き合いの絶妙な距離感や思いやり、スパスパ…
当番ノート 第35期
誰もいない作業場の跡地のような場所で、鉄骨に小屋が吊るされていた。 それは時々ゆっくりと回りながら、風に揺れていた。 二十二歳の冬の日、はじめてそれを見つける。 新潟に帰省して、犬の散歩に出かけた夕方のことだった。 いつものように通ってきた道の近くには、水田に囲われた作業場の跡地のような場所があった。 昔から知っていたのに一度も立ち入ったことのないその場所が、その日だけはなぜか気にな…
当番ノート 第35期
はじめて入った古めかしい喫茶店で注文したホットココアはほんのひとくち飲んだだけで舌の根元が痛くなるほど甘ったるかった。机を挟み向かい合って座っている女のひとについてあたしが知っていることはそれほど多くはない。あたしよりも二歳年上で大学生だということ。この店のホットココアに大きな角砂糖を三つも加えて飲むような味覚の持ち主であるということ。そしてあたしがアサクラ先輩と知り合う少し前まで彼と交際してい…
長期滞在者
わたしとRと、どちらということもなく、そのきわめて特徴的な声で鳴く鳥の存在に気づいた。4月の沖縄はもうだいぶ暖かくて、午前中に窓を開けて仕事をしていたりすると、この鳥の「ちゅっちゅっ・ちゅちゅちゅ!」という甲高い声が響く。わたしたちのあいだでどちらということもなく、その声の主は「ちゅっちゅ鳥」と呼ばれるようになった。休日の昼間なんかに、窓を開けはなした家のなかで「ちゅっちゅっ・ちゅちゅちゅ!」と聞…
当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 7 地獄めぐりをはじめて1週間が経った。この日はシンブリー県にある地獄寺、ワット・ピクントーンへ。この寺院には比較的珍しい「浮彫」タイプの地獄絵があるという。シンブリー市街地からバイクタクシーで30分、巨大仏の見える寺院に到着した。 この大仏の台座部分は回廊になっていて、そのまわりをぐるっと地獄極楽の絵が…
長期滞在者
珍しく丸腰だった日。 意図してのことではなく、EOSとベッサ、どっちにしようか朝ずいぶん悩んで、よし、今日はEOS、とベッサを机に置き、そのまま馬鹿なことにEOSも玄関に置いてきてしまったという(嗚呼)。 カメラを忘れて家を出たら、その日は一日パンツを履き忘れているような嫌な感じがする、と誰かが言ってた。 そのとおりである。落ち着かないことこの上ない。 しかもこの、丸腰の時に限って、目につくもの目…
当番ノート 第35期
こんばんは!一気に寒いね。我が家ではこの週末にコタツはじめました。東向島にある今の家は、古い木造住宅をリフォームした物件で、どうやら壁が薄くてリビングの窓が大きいため、歴代の住居の中でダントツに寒い。私は寒さに弱い。という訳で、向こう半年コタツにおんぶに抱っこというか下敷きというか潜り込んで出てこない生活がはじまる。うう さて、今回はそんな気の抜け具合でのらりくらりと、靴下とお直しの話。一段と独り…
長期滞在者
先日、台北のフォトフェアーに参加していました。 海外の写真事情も、現地での人脈も特にあるわけでもなく、しかし東京での売り上げだけではどうにもならない閉塞感もあり、販路拡大のきっかけが得られればと考えて、初めて参加しました。 初めて降り立った台北・松山空港からタクシーで宿泊先のホテルに向かいます。パソコンからあらかじめプリントアウトしていたホテル名の記載された書類は全て英語で、それを運転手に見せれば…
当番ノート 第35期
はじめて海外旅行に行ったのは、二十歳のときだった。 三月の厳しい寒さのなか、フィンランドをひとりで一週間ほど旅した。 旅の途中、フィスカルスという美しい村で一枚の絵葉書と出会った。 今までに引っ越しを三回経験したけれど、部屋のどこかに 必ずその絵葉書は飾るようにしている。 じっと眺めていると、当時の様々な記憶がやわらかな痛みを伴ってよみがえってくる。 まるであの頃の自分の肖像を見つめるようにして、…
長期滞在者
拍手の音だけが耳に聴こえる。 全ての司会を終えて、頭を下げた瞬間に聴こえた拍手の音を、そのまましばらく聴いていた。 声の仕事をしてきて、20周年となった、10月のその日。 私は今も、自分の声を誰かに届け、言葉を使った仕事をして、最後に拍手の中にいる。 その事実に、感謝しかない。 20年で出会えた全てのことが、今も私が声を伝えることができる場所へと導いてくれたと感じる瞬間だった。 国連UNHCR難民…