当番ノート 第9期
僕が、誰かの写真を撮らせてもらうときにお話していること、 それは、今ではなく、20年後、30年後のような未来のことだ。 そのとき、その写真を眺めるあなたや そこに一緒にいるかも知れない誰かのことを想ってもらえたらと。 そして、ほんとうの月日が過ぎたときは、 そこに写る自分たちのことや写っていないいろんなことを 思い出してもらえたらとても嬉しい。 写真は未来にのこすタイムカプセルであり、 過去へとつ…
当番ノート 第9期
朝、校門をくぐるずいぶん手前で、私の影が空に落ちていくのを見た。よく晴れた空の、鈴の音のような白い雲の隙間、どこからでも転落しそうな青いプールに、まっすぐ、綺麗なフォームで飛び込んでいった。 四月の桜並木が、風にくすぐられている。校舎の窓が、いくつかもう開いているのが見える。 先週まで姉妹みたいに遊んでたみぃちゃんが、今日はスーツを着てあそこにいる。きっと緊張してる。どうしよう、私、すごくう…
当番ノート 第9期
これは政治じゃない、生活だ。 とても上手く説明なんて出来ねーよ、バカだから。 でも何がおかしくて、何がおかしくないことくらいわかるよ。 起こってる事柄は理屈だよ、構築された事実だよ。 嘘がバラまいたピラミッドだよ。 でもその震源は、いつだって心のはずだろ。 人は何かを感じて、何かを起こす生き物なんだ。 純度ある物事の動きには、感動があるんだよ。 何年も前から、何十年も前から、知ってるやつは知ってる…
当番ノート 第9期
誰かとの時間を共有するということは、 共有している相手の時間を、 一時の命を、わけてもらっているということだと思う。 先日夢に、しばらく会っていない、おそらくこれからも会うことのない人が現れた。 もう何年も会っていないのに時間は今を流れていて、 たまたま再会して、互いの近況を語り、別れるという、 なんの面白みもない、いつもの夢で起こる不思議なことがなにも起こらない、 ごくごく自然に起こりそうな日常…
当番ノート 第9期
空の青も 海の青も 例えば思い出の青も 全部全部 自分の好きな色なのです。 大学生の頃撮った まだ青い自分の 青い写真。
当番ノート 第9期
生き物の中身を、私は見てみたいと思う。 生きている私。呼吸をして動く、動物の、その皮膚の内側。そのからだ。こころ。 私は私の中身を見たことがない。 大学に入ってから、動物の骨を標本にする活動を始めた。 純粋に骨への関心もあったけれど、私にとってその一連の作業は骨格標本を完成させることを目的としているのではなかった。 私は生き物の中身を、この手と眼で、直接確かめたかった。 知っていますか? 生き物の…
当番ノート 第9期
長男が生まれる年の、ある夏の日の昼下がりのこと。 途轍もない音をたてて激しい夕立が降ったことがあった。 それは、家の屋根が落ちてしまうんじゃないかと思うほどの勢いで、 おまけにお腹にずっしりと響くような雷の音が遠くから聞こえてきた。 妻と僕は玄関の扉を開けて、ばちばちと音を立てて落ちてくる無数の雨粒をびっくりしながら眺めていた。 ずどーん! 大きな雷の音が遠くで鳴り響いた。 その瞬間、クーラーやス…
当番ノート 第9期
夏、夏、夏日。昼下がりの太い気温。指にたとえたら、ごっつい親指の腹みたいな。職人さんとか、親方とか、そういう人の強い指。 私の指はきれいに動く。仰向けで、板の間の床に背中の全部をつけて、指先まで反らせてみた。 天井には海岸線のようなシミがある。海面が上昇したように、去年よりも範囲を広げているような気がする。 扇風機が顔を振り、電灯から下がっている紐についた天体が、ちいさな楕円軌道を描いてい…
当番ノート 第9期
与えられなくても、与えることは出来るんだって。 やさしくされなくても、やさしくすることは出来るんだって。 接しなくても、見守ることは出来るんだって。 泣くことは、悪いことじゃないんだって。 簡単なことほど難しいし、難しいことほど簡単なんだって。 いつかの冬に、言われたんだ。 「結局良知くんはさ、愛したいし愛されたいんだよ。」って。 言われた途端、涙が出たんだ。 今はもう、夏だけどね。
当番ノート 第9期
. . . . あの物語は、つづく。 . . . .
当番ノート 第9期
かれこれ5年近く、わたしは毎週靴教室に通っている。 もともとは友達が通っていて、いろんな作ったものを見せてもらったり話を聞いていたらすごく興味が湧いてきて、 紹介してもらい、わたしも彼女とは別の曜日のクラスに通うようになった。 「靴教室に通っています」というと、よく「靴職人を目指しているんですか?」と聞かれるけれど、そういうのではなくて、 そもそも「靴教室」というのに語弊があるかもしれない。 わた…