当番ノート 第54期
ずっと伝えそびれていたことをここから君に宛てる。 先生は大人になってからできた初めての男友達だ。 私たちはまったく違うタイプの人間で、共通点は同い年であることと音楽が好きなことぐらいしかなかった。でも何故か一緒にいて面白く、気楽で、なんかよくわからんがウマが合う奴ってこういう友達のことなんだろうなと思っていた。 県庁の展望台、パンケーキの美味しい喫茶店、いちご狩り、ライブハウス、遊園地……。当時の…
当番ノート 第54期
年末、そして年始を迎えた。クリスマスを過ぎ、家々の玄関には正月飾りがぶら下がり、デパートには凶器みたいな門松がぼんぼんと立ち、スーパーの鮮魚コーナーの海老は日に日にでかくなる。 日付に比例して、「もうそろそろ正月だからがんばらなくてもいいんじゃない」という雰囲気の濃度が上昇していき、31日にはほぼ原液くらいになる。 こんなときだけ社会の雰囲気に合わせる私は、ちょっといい食べ物を買い込み(普段は6枚…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅から、誰かに届けとラジオ波を発信するような気分で書いています。全8回の5回目です。 – 先日、とあるインターネットラジオを聴いていたら「二度見知り」という言葉が耳に入ってきました。人見知りの間違いでは?と思ったのですが、聞いてみると納得。というか自分にドンピシャな言葉でした。 …
当番ノート 第54期
銀シャリのラジオを聞くともなしに聞きながら、ふたりは今、あの青いジャケットを着ているのだろうかと、ふと思った。いや、そんなわけない。音声だけなんだし、きっとトレーナーやらパーカーやらラフな格好に違いない。でもラジオブースを想像してみると、やっぱりふたりは青いジャケットを着ている。それ以外の服装が思い浮かばない。銀シャリといえば青のジャケット。青が板についている彼らが、少しうらやましい。 数年前、イ…
当番ノート 第54期
西暦1999年の大晦日の夜、渋谷のスクランブル交差点にいた。 21世紀が2000年ではなく、2001年から始まるということはもちろん承知だった。それでも、2000年を迎えるときは特別な感慨深さがあった。「19」が「20」になる。区切りがよい。でも、 21世紀はまだ来ない。世紀と世紀のはざまに生じた、空白地帯のような年だった。 1999年末にはそれまで誰も口にしなかったような「ミレニアム」とか「千年…
当番ノート 第54期
なんで切符だけひらがななんだよ…。 平成最後の夏を前に、私はみどりの窓口でそんなことを思いながらひとつづりの「青春18きっぷ」を購入していた。恋人と一緒に名古屋へ行くためである。 名古屋には私と恋人の共通の友人k夫妻が住んでいて、妻のyちゃんが娘さんを出産したので会いに行くことになっていた。 一泊二日、ひとり往復で2回分。ふたりで合計4回分。青春18きっぷは5回分でひとつづりとなっていて、片道5時…
当番ノート 第54期
今回は、私が一番好きなカレー屋について語ろうと思う。 私が通っていた大学は神保町付近にあった。神保町は、日本有数の古書店街であり、あらゆるカレーの名店が軒を連ねる街だ。どこか目的地のために歩いていれば、きっとそこに向かう途中で2軒くらいはカレー屋を発見するだろう。 当時、私は文学部で、軽音サークルに所属していた。カレー好きが多くなりがちなコミュニティに、それに十二分に応える立地。私の大学生活は瞬く…
長期滞在者
このアパートメントでは、自分が声の仕事をしているときの写真を多く使ってきているが、この写真を見たときに2020年のことを思い出すのだろう。口の前にシールドをして司会をするようなことになるとは、1年前には全く考えもしなかった。 2020年12月2日。「日本を代表する、外国籍人材活躍の現場」にスポットライトを当てる、Global one team Award 2020。記念すべき第1回で司会を務めた。…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅にて、ボイスレコーダーに録音したトーク内容を書き起こして投稿しています。全8回の4回目です。 – 少し伝えるのが難しいのだけれど、昔から、物と物の距離と、そこに発生する意味に興味がある。 例えば絵を描く時。手を伸ばしている人がいて、その手の先にはリンゴがある。こういう時、この人…
当番ノート 第54期
雪を知らない。国立近代美術館で山元春挙の「雪松図」を見ながら、唐突に思った。 山元春挙(1871〜1933)は京都画壇の重鎮で、円山応挙の流れをくむ画家だ。「雪松図」は金色の屏風に背景もなく、重たい雪を背負った松のみ描かれている。雪は画面向かって右から降っているのか、幹の右側にのみ付着し、水平に広がる枝と松葉には、のしかかるようにぼってり積もっている。山元が描いたのは、軽やかなパウダースノーではな…
長期滞在者
今年も残すところ1週間、今回がもちろん今年最後の投稿。 今年最後は、これまで出会った同僚たちについて書いていきたい。 偶然同じ会社に入社した人や、アルバイト現場で出くわした同僚たちの中には、直ぐに意気投合できるような人から心の中が解せない人まで様々な人達が混ざり合っている。 が、趣味や感覚も異なるからこそ、共に過ごす中でとても愛すべき瞬間もやってきた。 こうした偶然出くわした同僚たちについて振り返…
当番ノート 第54期
サンタクロースの存在を何歳まで信じていたのか、よく覚えていない。でも、サンタクロースを信じていた理由なら覚えている。 小さい頃のこと。クリスマス当日の朝、起きてすぐにベッド周辺でプレゼントを見つける。昨夜はわがやに忍び込んでくるサンタクロースの姿が見たくて、眠らず見張っていたつもりだったのに、いつのまにか寝てしまった。プレゼントは、たいてい私が希望していたとおりのおもちゃ。どうしてサンタクロースに…