お直しカフェ
私はカフェが好きだ。北千住のBUoY(ブイ)というアートセンターの中にあるカフェで月に数回店番をしている。ひょんな繋がりから人生3度目となるカフェ開業、構想や内装施工からに立ち会った思い入れのある店だ。元銭湯とボーリング場という廃墟同然だった場所を最低限の手直しで劇場やカフェにした、ヘンテコな場所。 私が店番をしていて好きなのは、一日中その場所のことを考え、整えながら、誰かがやって来たらその一角を…
当番ノート 第40期
しゃ・しん【写真】 ①ありのままを写しとること。 また、その写しとった像。写生。写実。 ②物体の像、または電磁波・粒子線のパターンを、 物理・化学的手段により、フィルム・紙などの上に 目に見える形として記録すること。 また、その記録されたもの。 たいしょう・じっけん【対照実験】 ある対象について 一定の因子の作用を明らかにする実験を行う場合、 これと別に、その因子を取り除き それ以外は全く同一条件…
当番ノート 第40期
赤信号になりそうなとき急げない子どもだった。 もちろん安全を考えたら走らないほうがいいのだけど、 なんだかいつも必死になれない自分を、少しずつコンプレックスに感じはじめた。 同じくらいのときから、薬も嫌いだった。 この小さな錠剤がどうかしてくれるとはとても思えなかったし、 薬を飲んで元気になることより、発熱や注射をがまんして、なんでもないように振る舞って皆に驚かれる方が好きだった。 体調を崩したり…
当番ノート 第40期
音のない海に潜る。 重力に身を任せながら、引き換えしようのないところまで、潜る。 自我さえない深海で、研ぎ澄まされた思考だけが光のように駆け巡る。 目が醒めるように、魔法がとけるように、ふっと海から顔を上げると、そこには元通りの時間の流れがある。日常。浦島太郎のような気持ちで、想像より幾分か周回の多い時計を見る。 どこまでも集中しているとき、私はどこでもないどこかにいる。だれでもないだれかになる。…
長期滞在者
大学の後輩が某航空会社で CAをやっていて、 ブリュッセルに来るというので、 20数年ぶりに会って食事をした。 当時から人付き合いの苦手だったぼくは その後輩ともあまり話したことはなかったのだけど、 会ってみると意外と覚えていることもあるもので、 危惧していたほど会話に困ることはなかった。 西洋舞踊専攻のコースに在籍していたぼくたちは、 それぞれ踊ることはあまりなくなっているけど、 やはりその大学…
当番ノート 第40期
8月24日から福岡の奥八女・笠原地区に滞在しています。ここで農業と芸術をつなげ、笠原という土地を捉え直すプロジェクトに参加しています。お米づくりを中心とした農業に従事しながら、新たな芸能を地元住民の方々、またこのプロジェクトの参加者とともに生み出す試みです。 ここでまた「芸術」と「芸能」というこの連載におけるキーワードが出てきました。前回は「『踊り念仏』から芸術と芸能の違いを見出す」とお伝えして結…
当番ノート 第40期
こんばんは。 突然ですけど、今晩お時間空いてます? 一緒に行きたいところがあるんですけど。 え?いやいや、美術館じゃなくて。映画館でもありません。 勘弁してくださいよ。すばらしき鑑賞体験てのは、美術館や映画館だけのものじゃないんですから。 今日は「CHAKRA」っていう南インド料理屋さんで、ミールスでも食べましょう。 今泉の、上人橋通りを少し東に入ったところにある、不思議なカレー屋さんです。 **…
長期滞在者
体調の浮き沈みは、病気になってから日常的なものになっているけれど、8月中旬ごろから水棲ゾンビのような状態でいます。 まともな精神状態をキープするのって、どうしてこんなに難しいんだろう。仕事に行く、食事を作るなど、生活の基盤となる様々なことがままならない状態が続くと、人ってこんなに心が荒むんだって、この身をもって実感している。人と建設的なコミュニケーションをとる余裕もないし、ましてや、溢れ出す思考を…
当番ノート 第40期
わたくし【私】 ①公に対し、自分一身に関する事柄。 うちうちの事柄。 ②表ざたにしない事。ひそか。 内密。秘密。 ③自分だけの利益や都合を考えること。 ほしいままなこと。自分勝手。 じこ・しょうかい【自己紹介】 初対面の人に自分の名前・身分・経歴・趣味などを 自身で言い知らせること。 -『広辞苑 第七版』より抜粋 - 私たちはリアリティの構築に参画している。 とある芸術家が語っていた言葉が …
長期滞在者
小説を読みながら、音楽を聞きながら、映画を見ながら、「まるで自分のための作品のようだ」と感じる瞬間がある。 特に孤独を感じているような時、そんな作品に出合うと、固く閉ざされていた扉が開いたような気持ちになる。見つけたのは自分なのに、世界のほうが見つけてくれたような気持ちになる。 スペインのブロガー、マイク・ライトウッドさんが書いた小説『ぼくを燃やす炎』は、多くのLGBTにとってそんな気持ちを与えて…
当番ノート 第40期
結婚を控えていた時期、母にぽんと小さな箱を渡された。 「これから必要になるかもしれないから」 中にはパールのイヤリングが2つ揃って入っていた。 正直、安っぽいその箱と、なんとなく軽い輝き。 それを見て、わたしは直感的に「イミテーションっぽいな」と思ったが伝えなかった。 しかもそのパールはイヤリングのパーツが付いている。 わたしはピアスホールがあるし、イヤリングは耳たぶを挟むので長時間つけると痛い。…
当番ノート 第40期
夏が終わる匂いがした。 通り雨に泣いたアスファルト、信号が青に変わる。 私は探し物をしながら歩く。散歩でも、駅までの道も。いつも、少し見上げながら歩く。 田舎で育ったせいか、ひとごみが苦手だった。 すれ違うひと、ひと、ひと、ひと。目に飛び込んでくるひと、背景を連想してしまう、情報の塊が蠢くようで、都会の駅が怖かった。 目を合わせない、顔を見ない。戸を立てるようにして、今では駅でも揺らがない。それで…