当番ノート 第39期
アルゼンチンタンゴの古い名曲に「Loca(ロカ)」という曲がある。初めて聴いたとき、切なくも華やかで、一抹の滑稽さもあるこの音楽のことをとても美しいと思った。「ロカ」という音がかわいいこともあって、私のこの曲へのイメージはどことなく「少女」じみていた。 しかしその後、曲名の意味を調べてみてへえっと思った。 Locaとは、「狂った女性」という意味だったのである。 * 狂っている、という言葉…
当番ノート 第39期
だれかを失った場合、われわれはその亡き人、いなくなった人が実体のない想像上の存在になってしまったことを悲しむ。 しかしわれわれがその存在をなつかしむ気持ちは架空のものではない。自分自身の奥底まで降りて行こう。・・・その不在はまさしく現実である。その人が死んでからは、不在がその人のあらわれかたになる。(シモーヌ・ヴェイユ 『重力と恩寵』 春秋社) ・ ・ ・ ・ ・ 19歳から21歳くらい…
長期滞在者
特別な経験よりも何気ない日常に光をあてることに、私は面白さを感じます。 私の住む家は20代後半から30代半ばの男女が5人住んでいます。 それぞれが個室を持ち、何か困ったことがあれば話し合って暮らしています。 この連載では家で起きたことを日記形式で綴っていきます。 こんな世の中にこんな生活があるのだと、愉快に思っていただけたら幸いです。 ※住人のプライバシーを守るため、名前は仮名を使用しています。 …
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
彼女のフェアなところが好きだ。 時々「きっつーい」と思うけれど大概その場で納得してしまう。だからあれだけ欠点や誤ちをビシビシご指摘いただいているにもかかわらず、嫌な気持ちを抱いたことがない。むしろ、ちゃんと言ってもらいたくて、ひとに言えないことほど彼女にだけ話してきた。 そういえば長い間、彼女はあまり自分のことを話さなかった。代わりに家族や学校生活や趣味についておもしろ可笑しく親しみを感じさせなが…
当番ノート 第39期
アルゼンチンタンゴにハマっている。聴くのと踊るのと両方だ。週に1回か2回はレッスンに行き、家でも毎日30分から1時間は練習をする。朝起きたらタンゴのCDかコンサートのDVDを流す。 いったいなぜ? きっかけは? その質問に対して、端的に答えるならこれしかない。「嘔吐です」だ。サルトルの書いた小説のことではない。リアルな、肉体的行為としての嘔吐である。 * ほんの3ヶ月ばかり前のことだ…
長期滞在者
先月初め、娘の誕生日を彼女より少し年上の息子と 彼らの母親と一緒に祝うためにヘルシンキに一週間ほど滞在した。 到着して数日間はまだ5月初めとしては異例の寒さが続いていて、 天気は良いのだけどダッフルコートが手放せなかった。 彼らの住んでいるところから徒歩20分くらいのところに とても設備の整った室内プールがあるので、 ヘルシンキに行くときは必ず何度か泳ぎに行くことにしている。 そこは10レーンもあ…
当番ノート 第39期
はじめまして、モクです。 これから2ヶ月間、ここで連載をさせていただくことになりました。 平成6年生まれ、現在23歳です。 親の仕事の関係で小さい頃から引っ越しが多く、幼稚園を2校、小学校は3校通いました。 同じ県内でしたがそれぞれの学校にカラーがあって、そこにいる生徒や先生もちょっとずつ雰囲気が違っていました。 上京するまでの最後の7年間は、新潟市の小さな海辺の街で暮らしました。 家の裏には防…
当番ノート 第39期
ご無沙汰しています。 お元気ですか? 最後に会ったのは、今年の頭。2017年を無事に終えた感謝とこれから始まる2018年を祈願するために、天狗で有名な神社に行ったのが最後かな。広々とした境内、太く長い杉の木に囲まれていて、大きな門の入り口を抜けて歩いていくたびに「囲まれている」という感覚になった。しばらく会えていなかったから、最近のこと、家族や仕事のこと、好きなことや好きじゃないことを話したような…
長期滞在者
「うーん、様子を見るしかないですねえ。どうしても体調が優れないようであれば、また相談してください。」 定期検診で、久々に会った主治医は淡々とそう言った。診察票を挟んだピンクのファイルを手にとって、扉に手をかけたら、後ろからお大事に、と声がした。(お大事に、か…) 診察室を出るときの扉が嫌に重たかった。顔を上げるとパートナーが心配そうな顔で私をみていて、その瞬間、緊張が解けたのか、いろんな感情が湧き…
当番ノート 第38期
これで私の投稿は最後になります。 あっという間でした。このような自己表現の場所があるなんて、とても有り難い機会でした。感謝します。 私は(描く才能)を貰って産まれてきたのだと思います。 幼少期の事を思い出しても、社会人になって振り返っても、自然と周りに絵を描いている人がおり、絵といつもそばにいました。(絵を描け)というメッセージだったのだと今、そう捉えるようにしています。 (描く)努力はこれからも…
長期滞在者
自分がゲイであることは、なるべく早めに言うようにしている。単に「彼女はいる?」「好きなタイプは?」といった質問に嘘をつき続けるのが負担なのと、時間を重ねるほど言い出しにくくなってしまうから、そうしている。だからその人と今後も関係が続いていきそうか、偏見が少なそうかを確かめてから言うし、言わないこともある。 言った時には、その人にとって「生まれてはじめて、現実世界で出会った同性愛者」になることもある…
当番ノート 第38期
散歩 ただ歩く そのことで世界が変わる 自分の頭で考えてもどうしようもないこと 外に出るといろんなものが助けてくれる 風が吹き 人がいて 空が青い アイスクリームを買いにいく ヨーロッパの夕方は長い 一日が全て終わって まだ 外が明るい