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お直しカフェ (15) 柿志婦゛

お直しカフェ

私の働くカフェも休業している。これは最後に店番をしたとき、知らない間にカウンターの傍から撮ってもらっていた写真。この日は春からの新しいスタッフの面接もたくさんあって、忙しかったけど楽しかったなあ。全部、ひと昔前のできごとみたいだ。

気を取り直して。

お店のエプロンをお直しするために持ち帰ってきた。使い続けているうちにコーヒー滲みなどが目立つようになったからだ。「新しく黒いエプロンを買おうか」と言うオーナーに、それだったら、少しの手間と予算をかけて私にお直しさせてくださいと願い出た。幸か不幸か時間はたっぷりできた。

開業時に、スタッフのお母様が手作りで準備してくださったエプロン。どうやってお直ししようか迷って、ひとまず手芸店にある染料や布用のスタンプを入手してみたけれど、手が止まっていた。それがあるとき、テーブルの塗装用に柿渋を手に入れて、「あれ、これでエプロンも染められるじゃん」と、一気に染め直した。

柿渋屋さんのアドバイス通り、刷毛で色付け。染色と言えば、染め液にざぶんと布をつけるのが一般的だと思うけど、「もったいないから塗ったらええよ」と。ふむふむ。染めたいのは白い布のところだけだったので、このやり方は、その点でも好都合だった。絶妙に、コーヒーみたいな色。シミを隠すだけでなく、これから着くだろう汚れもきっと目立ちにくくしてくれるはず。柿渋が繊維をコーティングしてくれ、布がいっそう丈夫になる効果も期待したい。

柿渋を買い求めたのは、京都、河原町二条の渋新老舗さん。大和仮名で書かれた「柿志婦゛」の看板が渋い。京都の老舗はどこも入るとき少し勇気がいるけど、一度暖簾をくぐれば、とても親切にいろんなことを教えていただけることが多い(比喩です。こちらにお伺いしたときは暖簾もかかっておらず、お店の入り口らしき引き戸を開けていいものか、更に勇気が必要でした。余談)

この看板も、何度も何度も柿渋を塗ってお手入れされているように思う。木が全く朽ちてなくて、それでいて光沢を放ってどーんと存在感がある。かっこいい。使うごとに直すごとに、存在感を増してよくなっていく。一年に一度か、定期的に、目をかけて手を入れる。木も布も、柿渋によって、お手入れによって、うんとうんと長く生きながらえることができる。ピカピカのお寺の廊下を靴下で歩く、その安心感と緊張感を思い出す。
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近所のアパートメントのオーナーの方がいつも軒先をとても綺麗にしていて、毎週のように、ちょっと覗きに出かけている。家から徒歩10秒ぐらい。おそらく自宅かどこか別の場所で育てているものを持って来て入れ替えているのだろう、季節ごとに、花満開のプランターが並ぶ。私たちだけでなく、近所一帯の人たちがこの花壇を楽しみにしていて、毎週のように連れ立って眺めて、「ごっついの咲いてるわ、見てみ」とか「ようしはるわ」とか「立派やな」とかとか、会話にひと花咲かせている。とか言ってみたりして。

はしもと さゆり

はしもと さゆり

お直しデザイナー。企画と広報、ときどきカフェ店員。落ちているものとお直し、マッサージとマイケルジャクソンが好き。

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