当番ノート 第52期
貝殻に耳をあてると、海の音がする。 母はそういうことを平気で言う人だった。 友だちと喧嘩をして泣いて帰った日も、図工の時間にじょうずに描けなかった日も、ポートボールで補欠になったときも、母は海で拾ったタカラガイやクモガイをわたしの耳にくっつけた。そうすると周りの音はもやがかかったようになって、さあさあ、とか、ごうごう、とか、プールに潜ったときのようなくぐもった音がする。 貝によって音がちがうの…
当番ノート 第49期
朝が苦手というよりは、夜のことが好きすぎるのかもしれない。人びとがみな寝静まっていて、気配がない。守られた部屋の中で、この惑星の中でたったひとり、わたしだけが起きているような錯覚。朝よりも、昼よりも、自由をゆるされているようにもおもえる。わたしをとがめるすべてのものも、きっと眠っているような気がするから。 家で仕事をするようになってから、前よりももっと起きるのが下手になった。身体がベッドの底に沈ん…