ゴミ分別の煩わしさと憂鬱を逃れるために

第6期(2012年12月-2013年1月)

こんにちは。
このたび、日本のゴミ分別の煩わしさと憂鬱を逃れるために北アフリカの都市マルセイユに住むことにしました。

この「アパートメント」には、マルセイユ国立バレエ団のダンサー木下氏からご紹介いただきました。

この街に来ると、まず目につくのは、ミストラル(季節を問わず吹く南仏特有の冷たい強風で赤城おろしや六甲おろしのようなもの)に巻き上げられて空中を浮遊したりふわふわと道を転がっていったりするスーパーの袋、新聞紙、人糞らしきものついたキッチンタオル、使用済みパンティーライナーです。

アフリカの他の地域に比べてマルセイユの人たちが特別ゴミの出し方のマナーが悪いわけではありません。
マルセイユでは、ゴミ収集人の労働組合が大変強く、年中ストライキがあります。
マルセイユについた当時、Super U(近所のスーパーで、この地区では唯一の文化的な憩いの場)の掲示板に張ってあった「地区のコミュニティサイト」にアクセスしてみました。そして「日本語教えます」と投稿してみました。速攻でコンタクトしてきたのはウェブマスターでした。
ウェブマスターはマルセイユ市のゴミ清掃人でもありました。
彼にゴミ清掃人の仕事についていろいろ質問すると、その労働条件はまるで天国のようでした。
通りに箒を持って出て出動し通りの端から端まで歩き終わったら帰っていいのだそうで、結果、一日の労働時間は実質1時間。あとは家に帰って好きなことをして良いとのこと。その上病欠(有給)は年4ヶ月までOKなので、毎年4ヶ月ばっちりとっているとのことでした。彼は傍らでは市の職業高校でCGを教えるバイトをしています。「清掃人のほうは病欠して職業高校で教えるということは可能なのか?」と疑問に思いましたが、そこはマルセイユなので適当、とのことでした。
ゴミ清掃・収集人は市役所の公務員であり、また、肉体労働なので福利厚生面は手厚く、退職して年金をもらえるのは早いし、病気や怪我で働けなくなった場合も一生お給料と年金がもらえます。傍ら、いくらでもバイトができるので、本当に素晴らしい職業のようです。ちなみに彼はマルセイユの裕福な銀行家の息子で、家には家政婦さんが毎日通いで掃除にきているとのことでした。

私はこの話をきいてマルセイユのゴミ清掃人になりたくなりました。彼にどうやったらなれるのか?試験があるのか?とききました。
コリコリ受験勉強して高得点をあげるのだけが唯一の特技だった私は、筆記試験なら昔とった杵柄、得意中の得意です。
しかし彼によると、ゴミ清掃・収集の仕事はみんなの憧れの職業で、試験ではなくコネが必要、しかもマルセイユ市長ゴダン氏と「君・僕」で呼び合う間柄ぐらいの強いコネがないととてもなれないとのことでした。ゴダン市長はマブダチなので今度紹介してやる、と言われましたが、紹介してもらえないまま、あれから5年がたっています。


なんでも丸ごと市のゴミ箱に放り込めばいいマルセイユと違って日本は大変。
そんなわけで大抵の日本人は分別の面倒を避けるためにヤクザに頼んでコンクリ詰めにして東京湾に沈めてもらう。

2009年には、マルセイユでゴミの分別しても、廃棄先では全部一緒にされて処分されていたということがニュースになり、それ以来、分別の努力をしていたごく一部の人たちも分別をやめてしまいました。分別用ゴミ箱は今でも存在していますが、家で分別していっても、分別用ゴミ箱に滅茶苦茶にいろいろなゴミが突っ込んであるので完全な無駄です。分別といってもおおざっぱな分別で、プラスチックボトル類と紙類の二種類しかなく、その他のゴミは全部一緒、分別が面倒くさい人は「その他のゴミ」にプラスチックボトルも紙も全部入れてもいいことになっていますが、それでもやはりどちらのゴミ箱にもあらゆるゴミがあふれんばかりに…いや、あふれて通りに散乱していますが…詰め込まれています。

詩人関口涼子氏は、国民は暇だとフランス人みたいにあばれたり抗議したりデモやったりするので、日本の細かく厳しいゴミ分別は政府の陰謀ではないかといいます。
たしかに日本にいるときは、ゴミの分別にものすごい時間とエネルギーを費やして生きていました。
その作業から解放され、一日少なくとも2時間は余分に人生を生きることができている気がします。
マルセイユはいいところだと思います。