物語が始まらない

第8期(2013年4月-5月)

いつから絵を描いていますか、という質問に「物心ついた時からずっと描いている」と答えることに憧れがあります。しかし私はどちらかというと工作が好きな子供で、学校や保育園で求められるとき以外に絵を描くことはありませんでした。
自分から絵を描くようになったのは小学校の六年生、そのころに自分の部屋が与えられました。姉に借りた漫画の表紙絵を色鉛筆で模写していたのが始まりです。それからだんだんとひとりの部屋で絵を描くようになっていきます。

中学生ころの絵を見返してみると、細かい線をがさがさとたくさん描き重ね、輪郭線を決めかねている印象があります。それが変化してきたのは高校の美術部でデッサンをはじめたころ。見たものをそのまま写すデッサンにはこれが正解だという線があり、それを確定させないと絵になりません。不確かな絵は、これから素晴らしいものになるかもしれないという可能性を秘めている分魅力的にも見えますが、それは絵ではないのです。

次に描く線、次に置く色が、いままで描いてきたこの絵を台無しにしてしまうかもしれないということ。それを考え始めると恐ろしく、描きかけの絵をただ眺めるだけの時間が過ぎていきます。

伝えたいことがあるわけでもなく、面白い着想があるわけでもない。
絵を描いて表現したいことなんてなにもありません。
だからいつか、ぱったりと絵を描くことを辞めてしまうような気がしてならないのです。

何週間か絵を描かないことがありました。
絵で生計を立てているわけではありません。
仕事をして、本を読んで、過不足のない生活をしていました。
それでもまた絵を描き始めたのは、なにかよくわからない焦りがあったからです。
絵を描く側の人間でありたいという見栄だったのかもしれません。

断面的なディテールがあるだけで、テロップがない。
いつまでたっても物語が始まらないのです。