風でなくてもいい

第8期(2013年4月-5月)

絵を描く時に気になることのひとつは、風、重力、水の流れ、など、画面の中を移動する力のことです。
画面の中を移動する力であれば、それは風のように見えても、もしかしたら別の惑星の引力かもしれないし、必ずしも風でなくてもいいのです。

何の手がかりもない白い紙の上にペンを走らせるのはいつも心細いです。
先の見えない迷路に入っていくような気持ちです。

画面上の流れは、その迷路を解いて、なんとか絵のようなものを完成させるためのヒントになります。

重力に従っている絵が好きです。
例えば、ヴュイヤールの「ベットにて」という絵。
ベットとひとつの塊のようになって眠る女性像に、心地よい重力を感じます。

心地よい絵。

そういえば昔、ある美術展で、罠にかかった狐の絵を見たことがあります。生々しく血の滲んだ絵を見て一瞬「痛々しい、かわいそうだ」と思い、そのまま次の絵に移動しました、その移動する数秒間で、気がついたことがありました。それは、私がその絵の前から立ち去っても、描かれた狐はずっと罠に足を挟まれて血を流し続けているということです。もちろん描かれた狐というのは絵の具であり、そこに主観はありません。そうだとしても、それはむごいことのように思いました。

描かれた彼/彼女たちは、もう動くことができません。
主観はなくても、見た人が主観を投影することのできる存在です。
せめて自分の描く絵の中の彼/彼女たちは、心地よい状態でいてほしいのです。

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いろいろな縁がありまして、4月と5月、アパートメントにお邪魔することになりました。
少しの間、おつきあいいただけたらと思います。