嘘つき

第13期(2014年2月-3月)

月が卵のように割れて、真っ暗な夜を垂らす。
風は野良犬、街中にウロウロ。
冬がやっと東京に訪れた、喉は常に痛い。

「今の自分を愛するため、過去の自分を受け入れる」あなたがいう。

今日は嘘つき。

悲しみしかない過去の自分をどうやって受け入れたらいい?
人は過去を綴じ込み、無かったふりをし、それを「受け入れた」と名付ける。
なぜしっかりと向き合わないのだろう?

「後ろをみてはいけない。けど向かう先を確かめるためには振り向いてもいいでしょう?」涼しい手を僕の頬っぺたに当てながら、あなたがいう。

今日は嘘つきだ。

目が優しさでいっぱい。
今になっても、あなたが僕に同情しているのか、僕のことを愛しているのか分からない。
いや、知りたくないかな。

「今」を海岸としたら、過去は打つ波。
いったりきたりして。
満ち潮と引き潮にも意味がある。

人は何故自分の罪を愛せないのだろう?なぜ痛みに意味をみつけることができないのだろう?
そのせいで人が人を許せないのだろうか?
ま、ほとんどの人が考えていることや感じていることを言えないでいるのだからしょうがないか〜。

嘘つき。

僕の顔が燃えている、胸はすでに燃えたまま。なぜなら、僕は枯れた木のよう。すぐ火につく。
あなたの小さな透明な乳房に顔をあてる。乳首からココナツと僕のツバの香りがする。
あなたが僕を優しく抱き、癒してくれる。あなたの涼しい肌に俳句を作ってあげたい。
でも僕は写真家だ。写真を撮ってあげることしか出来ない。

今日は嘘つきだ。

人の心を読めることほど苦しいことはない。
情けしかない。
身を忘れたくなる。
そして身を忘れ、僕は眠りにつく。

夢。永遠の白。雪に埋れた道、真っ白な薄い着物を着た女の子が走っている。胸に何かを押し付けて。
僕の血まみれの心臓だ。女の子が躓いて思い切り地面に倒れる。真っ白な道につぶれたトマトのよう。
彼女と一緒に倒れ込んだかのように驚きながら僕は目覚める。
あなたが心配そうな目で僕をみつめている。

「悪夢をみたの?」

なんと答えればいいのか分からない。

「僕は嘘つきだ」口から出る言葉「今日、僕は嘘つきだ」

「ば〜か、それでいいのよ、それでいい」
あなたは起き上がって、服を着はじめる。あなたの写真を撮る。
僕は嘘つきだ。でもあなたには見透かされている。それでいいのだ。

部屋は静か。しばらくカメラの音しかしない。