パソコンの前に座って 第3回

第22期(2015年8月-9月)

一週間って24時間しかないんじゃないかと錯覚するぐらい、時間が経つのが年々早く感じてきた今日この頃です。
3回目の本日は、僕の作品にはかかせない印刷について。

仕事で絵を描く場合、大抵は大量生産が前提にあります。デジタルの場合、スキャニングの手間が省けたり、修正も比較的しやすいので、仕事とするにはアナログに比べて有利な面があるかなと思うのですが、1点ものの「芸術作品」という観点からすると、やはり一色一色丹精込めて描き込まれ、自分の魂が宿った作品には到底敵わないなーと強く思います。では、どうしたら少しでもデジタルイラストレーションに芸術的「価値」を付ければいいか…。デジタルで絵を描き始めた時から今もその問題は模索していますが、ある印刷方法に出会いました。

その一つが「ジークレープリント」というもの。

「ジークレープリント」とは「デジタル版画」とも言われ、新しい現代の版画の一つとして認識されています。「僕の作品はジークレーですよ」と言っても、日本で僕が出会った方々の中で、知らなかったという方が多いなあという印象ですが、欧米の方では割とポピュラーな技法で、「ジークレー」と言えば伝わりやすい気がします。

版画にも色々種類がありますが、共通しているのは版を作るという事。木版画であれば木に、シルクスクリーンなら布、リトグラフなら石みたいな感じで、ジークレーの概念は、その版をデジタルデータで作るという事です。印刷方法も、一般的なオフセット印刷のように大量生産するものではなく、作家が印刷所に立ち会い、厳密な色校正から一枚ずつ刷り上げていくのが特徴です。インクを紙に直接吹き付けて印刷され、そのインクも耐光性・耐久性に優れ、粉っぽさも残っていて、手触り感もあります。

江戸時代に配られていた瓦版や浮世絵などの版画は、版画工房には「絵師(絵を描く人)」「彫師(版を彫る・製版する人)」「摺師(印刷する人)」がいてますが、ジークレープリントもイメージ的に同じで、絵を描く人がデジタルで版を作り、印刷所にいる摺師に印刷してもらいます。(「絵師」「彫師」「摺師」全部の工程を一人で表現される作家さんも、もちろんいらっしゃいます)。版画は複製芸術の一つであり、一枚一枚にエディションを設ける事でその価値を見出してきました。ジークレープリントでも、エディションナンバーやサイン、印刷所からの証明書などを入れ発表します。

僕の作品ではもう一つ、シルクスクリーンが代表的な「スクリーン印刷(孔版印刷)」も用います。

僕が絵をデジタルで描き始めた当初は、「印刷」とは切っても切れない縁ができるだろうなと思い、レトロ印刷というところで働きながら絵を描いていました。そこでは主に「孔版印刷」という技術が用いられています。入稿の仕方もちょっと特殊で、使う色ごとに版分けが必要なので、例えば赤と黒の2色刷りの場合、赤色のデータと黒色のデータを入稿する必要があり、まさに現代の版画工房といったところです。この印刷所に勤めたおかげで、印刷についての知識やデジタルイラストレーションの可能性を感じれたように思います。
レトロ印刷はこちら

こうして版画の歴史を調べていると、一点ものの絵画に比べ、版画の価値を上げるにはどうしたらいいか、昔から様々な議論がされているようですね。
木版画や銅版画などでは価値を上げるため、予定枚数に到達した場合、その版を壊すと聞いたことがあります。デジタルデータの場合は、ずっと残っているので、そこらへんはどうするのか課題も多いですが、時代が進み、新しい技術が
生み出される度に「価値」という概念も変動していくものだと思います。

デジタルであろうがアナログであろうが、「絵を描く」という行為そのものは根本的に同じで、着想・アイデアだったり、いかに魅力的な絵を描くか、生み出すまでに相当なパワーを消耗します。僕自身、「デジタルだから」という考えに捉われてしまうこともありますが、願わくば、「絵を描く」という行為に価値を出せる人間になれればなーなんて思ったりしています。

では本日は、「ジークレー」と「スクリーン印刷」で出力した作品をご紹介させていただきます。

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元のイラスト

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ジークレープリント

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直接触ると粉っぽく、手触り感もあります。

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孔版印刷で最近作った名刺

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黒の上に金のインク重ねた2色刷り

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孔版印刷で作ったZINE

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黒と黄色の2色刷り

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表紙には金インクを使用

次回からは、僕のもう一つの活動「repair」についてご紹介させていただけたらと思います!