第三話 「27歳のロングバケーション」

第22期(2015年8月-9月)

「何をやってもうまくいかない時は、神様がくれた長いお休みだと思う。」

昔ヒットした「ロングバケーション」というドラマに、こんなセリフがありました。
早稲田を中退し、フリーターをしながら漫画家を目指していたころの僕は、まさにロングバケーション真っ只中で、何をやってもうまくいかず、どうしようもない日々を過ごしていました。
エロビデオ屋のバイトをしながら、妖怪がでてくる漫画を描いていました。
講談社のちばてつや賞に何度も応募しましたが、すぐに返却され、参加賞のスクリーントーンがどんどんたまっていくだけでした。
すでにプロの漫画家になっていた、大学時代の友人、Oのアシスタントを、少しだけ手伝いましたが、スクリーントーンもうまく貼れず、全く役に立ちませんでした。
持ち込みをして編集者に見てもらうと、

「全ての編集者を代表していうが、
君は漫画をなめている!」

と言われて、二時間説教をされまさした。
君は漫画家には向いていないから、就職をしたほうがいいと言われましたが、三浪二仮面浪人し、
大学も中退してしまった僕を雇ってくれる、企業があるとは思えませんでした。
驚くべきことに、漫画家は26歳以下でないと、
プロになるのは難しいと言われているのだそうです。
常に才能があるフレッシュな新人を、編集者は求めています。
絵がド下手な27歳の相手をしてくれる、
物好きな漫画編集者はいませんでした。

だんだん漫画を描くのが苦痛になっていきました。
漫画を描くより、何もせず、寝ている日が次第に増えていきました。
その日話したのは、コンビニの店員だけ。
その日やった事は、テレビのリモコンを押したことだけという、まごうことなき駄目人間として、毎日を過ごしていました。
僕の手はよく震えます。まっすぐではない、ぐにゃぐにゃした線では、とてもプロの漫画家としては、やっていけない気がしました。

その当時、漫画家を目指している女の子に惚れていました。
彼女はアシスタントをしながら、プロを
目指していました。
彼女は僕が描いた漫画を気に入ってくれました。
一緒にプロの漫画家になろう!と、お互い
励ましあっていました。
彼女に告白し、一週間だけつきあいましたが、

「まちがえた」

と言われて、すぐにふられてしまいました。
そのあともしつこくアタックしましたが、
彼女はもう振り向いてくれませんでした。
友達以上恋人未満のまま
二年がたち、ある日、彼女に言われました。

「あなたはこの二年、いったい何をしてきたの?」

彼女はアシスタントを続けながら、地道に
漫画を描き続け、新人賞を受賞していました。
僕は漫画を描く気力をなくし、
ダラダラ毎日をすごしているだけでした。
そして彼女は最後に、
好きな人ができたと、僕に告げました。

後日、彼女がその人とつきあい、
結婚したと、友人が教えてくれました。

27歳の僕はもう、どうしようもない状態になっていました。
大学を中退して、
プロの漫画家には、とてもなれそうにありませんでした。
友人達はどんどん結婚し、社会的に成功していきました。
就職する気にも、実家に帰る気にもなれず、
ただ時間だけがすぎていきました。

そもそも漫画家という職業が自分にあっているのか、だんだん疑問になってきました。
友人の漫画家Oは朝から晩まで部屋にこもって、
漫画を描いているとのことでした。
昨日も空を見なかった、
今日も太陽を見なかった、
それでも、ただひたすら描き続け、Oはプロの漫画家に
なったのです。
僕はずっと家に引きこもって絵を描いているのは、正直苦痛でした。
何より、僕が好きな漫画を描いていても、
これは現実ではなくフィクションなんだと
思うと、冷静になってしまう自分がいました。
どんなに迫力のある妖怪の絵を描いても、この
妖怪は現実にはいないんだと思うと、
寂しい気持ちになりました。
だんだん僕にとって漫画家は、
本当になりたい夢なのか、
わからなくなっていきました。

僕は途方にくれたまま、終わりが見えない、
長い長いお休みの、真っ只中にいたのです。

つづく