suicide cats in seaside②

第28期(2016年8月-9月)

suicide cats in seaside①

ばくばくと鼓動を打ち続ける毛むくじゃらな生物の身体は暖かく、
腕の中にもうひとつ心臓ができたような、奇妙な心地よさがあった。

これから自らの命を絶とうとするものが、突如目の前に現れた関係のない命を救おうとしてる。

その矛盾に疑問が浮かばなかった訳ではないが、
アマリは見知らぬ命をしっかりと抱きしめて水面を目指し泳いだ。

海中から勢い良く飛び出し、目についた岩場に毛むくじゃらを寝かせ、
ひとまず水の中から救済できたことに安堵のため息をつく。

ぐったりとしたそれにおそるおそる触れてみるが、相変わらず、ばくばくと脈は打っているようだった。

「….」

もう間もなく、0時になろうとしている。

急なアクシデントに見舞われたが、臨機応変に、できることはやった。
この見知らぬ生物のことは放っておいて、砂浜へ向かうべきだろう。
14歳になる今夜、アマリは使命を果たさねばならない。

「あなた、どこからやってきたの?」

「….」

「…あなた、死ぬの?」

毛むくじゃらにもう一度触れて問いかけてみたが、やはり返事はない。
気を失っているようだ。

「わたしもう行かなくちゃ。ミイラになる前に正しいことができてよかったわ。」

別れを告げ、海中に潜ろうとした刹那、
その不思議な生き物は”むにゃん”と一声鳴いたかと思うと、
ちいさな前足で自身のからだをゆっくりと持ち上げた。

眠っていた命が目を覚ましたことで、空気が小さく震える。
その振動がアマリには耐え難く、いてもたってもいられない。
姿を隠したい衝動に駆られたが、意識がはっきりするのを辛抱強く待った。

「さかな…」

その声はじゃりじゃりとして、ザラザラしている、今まで聞いたことのない、不思議な音色だった。

「…魚?」

「…きみ、誰?ぼくのさかなを見なかった?」

「わたしはアマリ。魚って、どんな?あなたの魚って、どういうこと?」

「ぼくだけのさかな。まだ見たことないんだけど。ぼくだけのって、決まってるんだ。」

「魚は海のもので、みんなのものじゃない?あなただけのものって、そんなのおかしいわ。」

毛むくじゃらは目を覚ましたまま夢を見ているかのような、ひどく曖昧な表情をしていた。
焦点が定まらない、ぼんやりとしたまなざしでアマリを見つめる。

「あなた地上の生物でしょ?どうして海の中に?」

「きみ、ぼくを助けたの?」

「ええ。だって水の中にいたら死んでしまうでしょう。」

「きみだってこれからミイラになるのに。どうしてぼくを助けたの?」

「どうして知ってるの?」

「さっきそう言ってたじゃない。」

「…どうして、」

「ねえ、さかなを見なかった?ぼくだけのものなんだ。はやく探さないと。」

満月が今宵で一番の光を放つ。
それはきょうが終わり、あすが始まったことを告げる合図だ。

アマリは14歳になった。

少女たちの無念を晴らすために、人魚達の未来のために、おかしな因習を破壊しなくては。

「…わたし行かなくちゃ。」

だが身体が硬直して動かない。

目の前でちぐはぐな言葉を発し続ける、
毛むくじゃらから目が離せない。

ミイラになるよりももっとおそろしい予感が、アマリの全身を駆け巡った。

suicide cats in seaside③に続く