入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

いつか見た映画、そして映画館の思い出

当番ノート 第31期

今回は昔の話を、少し。
私は小さい頃から映画が好きだった。映画館にもよく通っていた。テレビで映画がやっていれば、なるべく見るようにしていた、そんな子供だった。

一番最初に見た映画は、おそらくテレビでやっていたチャップリンのドタバタ喜劇だった、と思う。当時はレンタルビデオもなく、映画を見るといったら、映画館かテレビだったので、特に子供時代は、テレビで放映する映画はとても貴重なものだった。今でこそ、『天空の城ラピュタ』がテレビで放映されると、ツイッターなどと連動して、みんなで盛り上がるが、当時は純粋に、真剣にテレビに釘付けだった。自分と映画と一対一だった。

初めて映画館に行って見た映画は『オーメン2』。記憶もあり、証言もあるので、間違いない。調べると、日本での公開は1979年の2月からで、私はおそらく公開直後に見に行ったようだ。私は当時4歳、4歳ながら、ものすごく覚えているのだ。なぜかと言えば、この映画が、ごくごくシンプルな、当時流行のスプラッター映画で、子供にとっては、ものすごく強烈だったからだ。母親と姉と見に行ったのだが、子供が見ても大丈夫な映画かどうかなど考えず、おそらく単純に、時間がちょっと空いたから見に行ったのだろう。場所は渋谷、現在はすでになくなっている、西武百貨店の地下にあった映画館だった。買ってもらったであろう、『オーメン2』のパンフレットを、家に帰ってから、触るのも見るのも怖かったことを覚えている。
この映画は、飛んで来たガラスの板がちょうどまっすぐ首にぶち当って、ピューっと血を噴き出したり、カラスの群れに襲われて突っつかれて死んだり、アイスリンクの氷が溶けて落っこちて死んでしまったり、、、そんなことだから、よく覚えているのだ。よくもそんな映画を小さな子供に見せたものだなーと思う。昔はいい加減なものである。

cinema

映画を特に見まくったのは、小学校3年生から大学生くらいの間だ。今までの人生の中で、もっとも映画館に通っていた時期だ。
9歳の頃、『スターウォーズ ジェダイの復讐』(「ジェダイの帰還」ではなく、「ジェダイの復讐」と書くのは、スターウォーズ原理主義者としての、意固地なこだわりと思っていただきたい)を劇場で見た。映画館に通うようになったのは、それがきっかけかもしれない。公開が終わっても映画館で見たかったので、いろいろな名画座に行くようになったのだった。

「ジェダイの復讐」は渋谷東宝で見た。現在はTOHOシネマズのある場所だ。私はこの映画を9歳から10歳の間にかけて、10回以上映画館で見たが、一度友達と渋谷東宝で見た帰り、お金が少し残っていたので、ポスターを買いたいと思ったが、なんと売れ切れだった。劇場内のしょぼい売店に、こまごまとしたグッツが売っていたように覚えているが、とにかくポスターが欲しかったのだ。売り切れと言われがっかりして、もう夕方だったので、帰ろうか~でも残念だ~、なんだかやり残し感があって、どうしよう~・・・と明け暮れて、二人で体育座りしていたところ、映画館の売店のおじさん(おじいさんくらいに思えた)が、これ、ちょっと破れているけど、よかったら持っていきな、と言ってくれた。我々はその貰ったポスターを握りしめ、意気揚々と家路についたのだった。今思えば、そのポスターは、生頼義範が描いたもので、劇場公開時に売られていたそのオリジナル版のポスターは、現在めちゃくちゃ高いらしい。道理で売り切れていたわけだ。
(家に帰って早速壁に貼ったが、いつしか汚れて破れて、捨ててしまったようだ。多少破れてても貴重だと思われる、惜しいことをした。)

sw2008
▲そのポスターの図柄がこれです。これは、2008年に日本で開催した、スターウォーズ30周年セレブレーションで販売されていた記念グッズの一つ、郵便局のA4のシート。幕張メッセで開催された、コスプレイヤーがうろうろするちょっと微妙なイベントだったが、これを発見したときの衝撃たるや。やはりこの生頼義範デザインのポスターは伝説だったのだな、とつくづく実感。

さて、劇場の売店で買ったもの繋がりの話で、これは小学校6年生の時だが、友達と渋谷の映画館に、『天空の城ラピュタ』を見に行った時のことだ。映画館は渋谷パンテオンのあったビルの、たしか5階にあった映画館だった。パンテオンのあったビルは、現在は渋谷ヒカリエになっている。
見終わった帰り、同じようにちょっとお金が残っていたので、パンフレットではなく、飛行石のペンダントを買った。700円だった。700円という大金を出すということについて、ものすごく悩んで、友人たちを待たせた記憶がある。そのペンダントは、金色の縁取りの中に、青い “つくりものの石” が埋め込まれていて、シータのように首にかけてはしゃぎ回り、私は大満足だった。ところが一週間もしないうちに、その “つくりものの石” がメリメリ剥がれてきて、あっという間に壊れてしまった。ものすごく安い飛行石だった。
ちょっと話はそれるが、その5階の映画館のすぐ横、もしかしたら劇場内だったかもしれないが、時々昔の映画パンフレットを大量に販売している時があった。よく映画を見終わった帰りなど、ぱらぱらと何か面白そうなものがあるか探したものだ。もしかしたらどこかの古本屋さんがやっていたのかもしれないが、ともかく、こんな時から古本を漁るということが、私にとっては映画を見るという行為と一体になっていたような気がする。

swshibuya
▲渋谷東宝のパンフレット。ページを切り取って部屋に貼りまくったので、パンフレットは何冊か買った。

スターウォーズの話に戻るが、「ジェダイの復讐」はほとんど渋谷東宝で見たが、ロードショウが終わってからは、やっている名画座を探して、いろいろと行ったものだ。よく覚えているのは、二子玉川の映画館に行った時のことだ。調べてみると、「二子東急」という名画座のようだ。現在は109シネマズがあるが、二子玉川にも名画座があったのだ。どうやらそこは80年代後半まで営業していたらしい。
『スターウォーズ』は、訳の分からないバスケット映画との2本立てだった。『スターウォーズ』をたくさん見たいので、『スターウォーズ』→『バスケ映画』→『スターウォーズ』という順番で、一日中映画館にいた。最初は前の方で見て、次はちょっと後ろの方で、などと、遊んだりした。
この映画館に行ったのをよく覚えているのは、見終わって帰る時に、ちょうど自分の座席の真下に財布が落ちていて、それを受付に届けた記憶があるからだ。おそらく私の後ろに座っていた人が落としたのだろう。ちゃんと持ち主は現れたのだろうか。家に帰ってからそのことを兄に話したら、「ちゃんと届けたのか、バカだなー」などと言われた。兄とはかなり歳が離れていて、なんだか大人って嫌だなーと思った。
関係ない話だが、同じ頃、友達と家の近くで遊んでいたら、トラックがスピードを上げて曲がり角を曲がった時に、荷台から段ボールが一つ落ちて、しっかり目撃していた我々は、我先にとダッシュして拾いにいって、それをみんなで頑張って交番まで運んだことがある。それは、メーカーは忘れたが、即席ラーメンがぎっしり入った段ボールで、半年後、持ち主が現れないからということで受け取りに行ったら、賞味期限が6ヶ月で、結局食べることができなかった。今考えれば、別に食べても大丈夫だろうと思うが、結局あれはどうしたんだろう。子供の頃だったから、それはものすごく大きな段ボールに思えた。

私はいわゆる鍵っ子だったので、そういった意味では、比較的自由に外に遊びにいくことができた。
中学生になると、学校から帰ってすぐ着替えて、雑誌の「ぴあ」を片手に渋谷に映画を見に行った。田園都市線沿線に住んでいたので、渋谷までは30分くらいで行くことができた。
土日は三軒茶屋の映画館に行った。なぜ土日かと言えば、三軒茶屋にあった映画館は名画座で、どの館も2本立てや3本立ての上映館だったので、午前中から行って、夕方帰ることができたからだ。現在、三軒茶屋にはすでに映画館は1軒も残っていないが、当時は3館もあった。
ところで雑誌の「ぴあ」だが、名画座で最新号を見せると、少し値引きしてもらえた。確か、100円引きになったと記憶している。

三軒茶屋の映画館で3本立てを見たことがある。三軒茶屋シネマだった。忘れもしない、中学2年の時だ。「暗黒街の男たち」と名を打った特集で、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』『ワンス・ア・ポンア・タイム・イン・アメリカ』『男たちの挽歌』の3本を上映していた。私が中学2年の時だから、1988年。それぞれの映画の公開が終わって、1~2年経ってからの3本立て上映だ。
上映の順番は上に書いた通り、『ワンス・ア・ポンア・タイム・イン・アメリカ』は4時間の映画なので、これを見終わったとき、既に夕方になっていたように思う。最後の『男たちの挽歌』は見ないで帰ろうかな~とも思ったが、もったいないのでそのまま映画館に残って見ることにした。ただ、お腹がすいて、たしか、映画館のおじさんに、買い物してきていいですかなどと断って、菓子パンを買いに外に出た記憶がある。当時はコンビニがまだ普及していなかったから、普通の街のパン屋さんで買った。どの映画もすべて印象的で強烈だったが、さすがに目が痛くなり、頭も重く、おまけにお尻も痛くなった記憶がある。
三軒茶屋シネマの思い出をもう一つ。忘れもしない、『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の2本上映だ。特にトトロの、あの感動というか、心の高揚感は凄まじく、私は映画が終わって外に出て、思わずトトロを探してしまった。

その2本を見終わって外に出るとちょうど夕方だった。森も林もないけれど、夕日に照らされる街並のどこか物陰にトトロがいてもおかしくないと、身勝手に考えていた。太陽がまだ高い時に映画館に入って、終わって出ると夕方になっているという、この白昼夢のような不思議な感覚、映画の内容も相まって、外に出た時、なんだか一瞬、別世界に連れて行かれたような、そんな変な気分に襲われた。このまま電車に乗って家に帰るのはなんだか侘しく、私は一人三軒茶屋の街をうろうろした。そして、おそらくこの頃から古本屋に行くようになった。当時は三軒茶屋の駅の近くにも古本屋が数軒あったのだ。
映画を見、古本屋の棚を眺めながら、私は少しずつ大人になっていった。トトロは見つからなかった。

映画や映画館の話はきりがないので、今回はとりあえずここまでとし、また次回に。

高松 徳雄

高松 徳雄

東京・下北沢の古本屋、クラリスブックスの店主。

神田神保町の古書店にて約10年勤務した後、2013年に独立・開業。現在に至る。
クラリスブックスでは、文学や哲学、歴史、美術書やデザイン書、写真集、さらにはSF、サブカルチャーまで、広範囲に取り扱う。

本の買取は随時受付中。
また、月に一回、店内で読書会を行なっている。

Reviewed by
黒井 岬

思春期真っ只中や、それよりも前に観た映画。子どもの頃には映画の中の世界に憧れを抱くと、劇中に出てくるものと似たものを、見終わった現実の世界でよく探していた。
見つけた時の嬉しさといったら。
表面に模様があるという点だけが飛行石に似ている、よく分からない樹脂のペンダントを私もよく持ち歩いていた。
あれはどこでもらったのだろう。そしてあれは今どこにあるのだろう。
どれもこれも映画と一緒に、やがて懐かしい思い出に変わる。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る