名刺の余白

第32期(2017年4月-5月)

2017年4月
大学を卒業して企業に就職した。

というのは僕の出会った中でも、
多数を占める同期の人の話である。

彼らとは今までと連絡の取り方や、スケジュールの合わせ方がまったく異なる。
しかし、卒業してから一カ月もしないうちに
なんらかの形で集まろうとする仲である。

そんな彼らには、今までになかった持ち物が一つ増えている。名刺だ。

こんな僕でもいくつか頂いた名刺を持っていて、色んなことが書かれている。

○○会社 ▽▽部 ××一課 田中山一郎
住所 電話番号 Fax ホームページ

所狭しと情報が刻まれている。

さて、僕自身も身分を示すツールとして名刺を作成しない手はないと思い
新しく自分で作ることにした。

いくつか手元にある名刺を参考に記入内容を考えてみる。

・会社名 なし
・配属なし
・役職なし
・名前 向田 真

薄々気付いていたものの書くことが少ない!

そして、名刺の一行目にはこう書いた。
トライアスロンライター・作家

二行目にはこう書いた。
ムコーダ マコト

後は住所や連絡先を記載した。

トライアスロンライターも作家もカタカナ表記の名前も
誰かがそう言っているのではない。
自分から言い出したものだ。

つまりこの名刺はまだ、誰かに立場を承認されていないということになる。

一般企業の名刺ならば、そもそも自分で作るものではないのだから
そこには誰かが認めた役職がある。立場がある。価値がある。

僕の名刺にはそれがない。

たとえば、「イチロー」と書かれていたら、
日本人ならあの人のことが思い浮かぶだろう。

その四文字だけで、人々はその人物を語ることさえできてしまう。

だから、僕の名刺も仕事が増えて、たくさん経験をして
書けることが多くなっても、むしろ文字を減らしていきたい。

そうなったら渡す意味なんてなくなるかもしれないけれど
「ムコーダ」という四文字だけが記載されている名刺が理想形だ。

かと言って、今の僕ではそんな名刺になんの価値も生み出せない。
だから、どうしても文字を増やさなくてはならないのだ。

裏面に書く内容も考える。

正直に言うと白紙でもよかった。裏面を白紙にすれば費用も安くなる。

これまでの受賞歴などを記載しようかと考えた。
しかし、それは興味を持つきっかけになったとしても
これから先、僕がどんなものを作り出せるかを示すものではないと思った。

そして、裏面の隅に、書く必要もない文字を、ちょっとだけ載せてみる。

名刺

文字はなんでもよかった。
余白が多いなと思ってもらえればそれでいい。

それが今の僕だから。