20191115

第47期

クロールの息継ぎは、難しい。

ブクブクと泡を立てて息を吐いて、顔を横向けて息を吸って、足はばたつかせながら、手は回しながら。
なんてマルチタスクをしているんだろう、と思う。
現代の世の中もそんな感じだから、しんどいのかもしれない。

生きているのが当たり前の世界、浮き袋を持っているのが当たり前の世界。
誰だって生きづらさを感じているはずなのに、誰もが隠すのはどうしてだろう。
見えやすい砂袋を持った人々だけが取り上げられ、透明な水が入った袋を持った人々は淘汰される。
どちらも、いや比べられないけれど、苦しいはずなのに。

砂と、水と、空気。

砂は水と混ざって泥になる。見えやすくなった泥の袋は、誰かによって引き上げられる。
砂を入れまいと足掻く人の袋は透明のままで、周りと同化してしまう。
どうしようもないけれど、どうにかしたいと思う。

泡だけになって浮かぶ声。
叫べば叫ぶほど、体の空気はなくなっていく。
手を伸ばしても、全然届いてくれなくて。
誰にも気づいてくれない、そんなときがあるのではないか。

それが、袋に入る水なのかもしれない。
周りと同じ色をしていて、何かを反射するから、完全に見えていないわけではないけれど
なんだかそれを自分ですら、なかったことにしてしまうのではないか。
本当は重くて仕方がないのに、見えないものにしてしまうのではないか。

見えなくても、叫んでいいんだ。
辛いなら、辛いって叫んでいいんだ。
その袋が透明でも、浮き袋に見えたとしても、それが本当に浮き袋でないならば
誰かに助けを求めたっていいんだ。

誰かに気づいてもらえないなら、誰かに助けを求めたっていい。
浮き袋になるまで袋をひっくり返して、そうしたら中身が溢れて、誰かが気づいてくれるかもしれなくて。
それも重くて出来ないなら、ただ揺られて沈んで、そうしたら誰かの網にかかるかもしれない。

だから、今は浮き袋を破ることだけは、やめてほしい。
それは命を終わらせてしまう行為になってしまうから。

浮き袋は、案外強くて、そして脆い。
あなたの袋は、あなただけのせいじゃない。