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3F/長期滞在者&more

外からくるひとたち

長期滞在者

91FACE87-54A3-4FC7-90BF-55D59712A30Aこのところ、ギャラリーに立ち寄る外国人の旅行者と思われる方々が目立ってきました。そしてリピーターになってくれる方が、家族やお友達を連れて再び来てくれたりすることが、徐々に増えてきています。

ギャラリーとしてのインバウンド対策、ということについて、今まで同業の誰ともそういう話題になったことがないのですが、日頃から備えておくことの一つとして、もっとも大事なのが、その場で持ち帰ることができる支度をしておく、ということ。
従来の展覧会ですと、会期終了後数週間後にお渡しできる準備が整えば良かったのが、明後日帰国するお客様に対して、今すぐお持ちいただく方が、売る側も買う側もお互いに助かります。あるいは、滞在先のホテルへこちらからお届けする、ということも考えられます。

写真などのシート状の作品の場合、スーツケースに収まるように、額はもちろんマットからも外してプリントのみでの納品というケースが多くなります。そのための包材を準備する必要があります。もちろんサインなどの裏書きは、最初から済んでいないと、その場でお渡しすることができません。そもそも、会期中でも壁から取り外してお持ち帰り可能など、作家さんもギャラリーも受け入れることができるかどうかにも関係してきます。

つまり、外国人にウケる作風は何か?などという浅はかなアプローチではなく、作品をお渡しするまでのオペレーションの技術を磨いていくことも大事だというのが、ここしばらく、何人かのお客様との対応で実感した部分なのです。どんなに魅力的な作品を展示していても、インバウンド向けの対応ができなかったり、受け取り方法や決済の方法で不便を感じさせたりしたら、もう、このギャラリーでは作品を買わない、ということになりかねません。ただ見に来てくれるかもしれませんけど。

ここまでは、主にギャラリー運営の商業的な側面でお話をしましたが、オペレーションだけでなく、手にとっていただくのは作品ですので、こちらにも手を講じる必要があります。

もしかすると、作家さん側にもそれなりの変化が求められる可能性があります。自覚的かどうかは別としても、今までほとんどの日本人の作家が日本人の観客に向かって作品を作り、社会との接点とは、日本人との接点であったはずです。写真で言えば、ある特定のモチーフに対して、わかりやすく言えば、季語のような物事の取り上げ方をすると、日本人以外は、全く理解できない、描かれた図像の裏側に透かしたはずの思いが透けない、ということにならないでしょうか。

好む、好まざるに関わらず、首都圏の人口と同じくらいの人数の訪日旅行者が、東京の街の往来の一部として、ごくありふれた景色になっていくのは、もう目の前まで来ています。彼らは、日本で暮らす僕たち以上に、思いもよらぬような各地の隅々まで脚を伸ばし始めています。2015年ごろから、都内では写真展に脚を運ぶ人数が減って来たと言われていましたが、その減少分を補うことができるのは、日本人ではなく外国人だと思っています。

表現するための言語のグローバル化とは、積極的に海外へ出ていきたいと願う一部の人だけが求められるのかと思っていました。上から目線で、「ヨーロッパでやっていくには、、、」というような彼の地の専門家の物言いにイラっとくる作家さんの姿をいくつか目にしていますが、アジアから、ヨーロッパから、頭を下げて日本のアーティストたちと繋がりたい、もっと深く知りたいと願う人たちに対して、どう接していけばよいでしょうか?
何もしない訳にはいかないと思っています。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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