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3F/長期滞在者&more

かんじたことのない景色

長期滞在者

5月の終わりに、仕事で新木場にいました。その場所へ行くまで知らなかったのですが、近くには東京オリンピックの競技会場がいくつか予定されていることを知りました。

すでにあった運動公園の一部を改修して、多くの人たちが通行しやすいように導線を改良したり、仮設のスタンドを取り付ける工事をしているのをしばらくの間眺めていました。そこで何の競技があるのかは、立て看板に書いてあったのですが、もう忘れてしまいました。

今思えば、その時から本当にオリンピックできるのかなぁ、という半信半疑の雰囲気に満ちていたように思いますが、沢山の重機が大きな音を立てながら、間近に迫った大会に向けて、急ピッチで進められていました。作業に従事している作業員ひとりひとりの心持ちは全く窺い知れないけれど、やることを前提に淡々と進んでいきます。

2年前、ほとんど完成した新しい国立競技場の建設現場を見た時の気持ちは、いよいよオリンピックも現実なんだという思いでした。こんなもの必要ない、いややった方がいい、それぞれに意見があるのは承知の上で、あの巨大なスタジアムが景色の中に現れると、いよいよ始まるんだな、と2年前は思っていました。

それが、開会式まであと50日を切っているという時期に、最後の仕上げの工事を急ピッチで進めている新木場周辺の景色を見ても、何の感慨も湧かない。この街のあちこちに掲げられる「TOKYO2020」の巨大なサインボードも、冷え切った国民の感情を強引に盛り上げようとするかのようで、共産主義国家のスローガンのようでもあり、ただ殺風景な埋立地の景色の中では余計に虚しさばかりが漂っている。

そして先週再び同じ場所を訪れました。施設は完成していて、会場付近は通行止めになっていましたが、すでに無観客開催が決まっています。

競技場は残るのでしょうが、仮設部分は秋になれば解体されます。誰のせいでもないのだけれど、結果としてただ作り、使われずに壊されてしまうだけの建造物を見るのはとても不思議な気持ちです。

いままで感じたことない景色、2度と味わいたくない感情とも言えます。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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