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3F/長期滞在者&more

みえるもの

長期滞在者

1月12日。今年はじめてのギャラリーの営業日は、色々やることが重なって仕事場を出たのが夜の9時半でした。お腹もすいたし、高速に乗る前に軽く腹ごしらえと思って、車庫から出たその時まで、飲食店が午後8時までの時短営業になっているのをすっかり忘れていた。

これほどまでに、綺麗さっぱりお店が休んでしまうとは。午後9時過ぎに何か食べたい、と普通に思う自分がいて、それが無理だとわかる。ただそれだけのことだが、実際に現実の光景を目にするまでは、まったく他人事でした。

2度目の緊急時短宣言は、僕たちが働いている街でもかなり厳しそうです。年末年始の稼ぎどきを耐えた後の時短で、多くの飲食店経営者たちが、営業スタイルを大きく転換させ、乗り越えようとする強い決意が感じられます。ランチをやめて、早めの夕方からのコース料理だけに絞りこむ。逆にランチ営業を夕方まで延長してディナーを廃止する。ランチ後の昼休みをやめて、そのまま夕方まで営業を続けるお店。スタイルはそれぞれの事情により異なりますが、メニューも変え、休み時間を削り、スタッフも削るなど、以前は手を入れなかった領域に踏み込むあたりに、去年の春とは全く違う切迫したものを感じます。

一方で、いわゆる映えスポットと呼ばれるような都心周辺の各所で#検索すると、いつもと変わらず、きらびやかなイルミネーションの下で、マロニエの街路樹が続く綺麗な大通りの中で、夜景が一望できるどこかの展望台の前で、決まり切ったポーズを取り無邪気にレンズに愛想を振りまく

男と女の写真が洪水のごとく次から次へと出てくる。

金の行き先がないのか、世界中の金利が低く抑えられているのもあって、株式市場に大量のお金が流れ込んでいるようだ。平均株価と実体経済はリンクしていないととっくの昔に思っているから、これをみて自分勝手な政治家が都合よく解釈しないことを祈るばかりだが、投資で潤ったトレーダーが、都会の隅っこで派手に振舞っているという話も聞く。

生きるか死ぬかの瀬戸際か、近い先に見える絶望に抗って、今できることに真摯に向き合っている人たちがいる一方で、現実から背を向けてのカラ元気なのか、何も考えていないのか、はたまた全く困っていないのか?あまりにも異なる景色に一瞬どうして良いのか分からなくなる。

手のひらに乗せたプリズムが、角度を変えると様々な色を弾き出して目が眩む。同じ街で同じ空気を吸っているはずなのに、自分フィルターのかかり方一つで、今の景色は灰色にも、薔薇色にもめまぐるしく変化している。今の自分の立ち位置を見失なって何から手をつけるべきか、やるべきことは見えているのに、何もできずに焦りと不安が先立ち何もかも中途半端に終わることが一番危ない。

こういう時こそ、劇的な変化を望まず、今すぐできることから少しづつ、それこそ誰も気がつかないような小さな変化を積み上げていくべきと、自分に言い聞かせよう。

プロボクサーが光を浴びるのは年間365日の中のせいぜい2~3回。10ラウンド戦ったとしても延べ時間は30分。残りの時間は、誰も振り返りもしない寡黙なトレーニングの時間だ。絶え間なく七色に光り輝くプリズムの光を一切みてみないふりをして、小さな成果を黙々と積み上げているのだ。口で言うのは容易いが、胃の奥の方がきゅるきゅると締め付けられるような強いストレスを感じることだろう。遠く先に光る眩い光は、小さな成功体験の小さな光が束になって集められたものだと経験的に知っているから、目の前のほの暗さも何とかやり過ごすことができるはずだ。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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