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3F/長期滞在者&more

いれものの大きさ

長期滞在者

展覧会のための作品の選出や構成を検討して作家さんに提案するのは、ぼくの仕事の一部です。
作家さんにも色々なタイプがいて、完全に自分の手から離して、全部お任せしたいと考える人もいますし、最初から最後まで全部自分が関わりたいと思う人もいます。ぼくのスタンスとしては、最後は自力で頑張って欲しいと考えています。完全お任せと言われても、最後は作家さんに決めてもらえるようにいくつかの選択肢を残して提案するのがぼくのやり方です。
印象に残る展覧会に仕上げていくコツとは、作家さんの考えていること、思っていることを限りなくひとつに絞っていくことです。結構なキャリアのあるプロの作家でも、この会場なら何枚入るのか?ということを考え、ギャラリーという入れ物の大きさに適切に収まる点数を考えることから作品のセレクション作業を進めるパターンが多いのですが、よほどコンパクトな会場でもない限り、入れ物の大きさから攻めるとぼんやりした構成になりがちなのです。30〜40枚程度の作品がずらりと並ぶ会場は、その適度なボリューム感に一瞬とても充実した内容に見えるのですが、いざひとつひとつを観察すると、こんなに沢山写真が並んでいない方が良かったのではないか、と思わせるような内容の作品もしばしば見受けられます。つまり、展示数を稼ぐために、作品から出てくるメッセージの論点が曖昧になっているのです。
時々お客様から、この会場なら40枚が相場なのに、どうして18枚しか並んでいないのか?もっと点数を見たかった、という感想をいただくことがあります。表現としての写真展とは多くの枚数を見せることが目的ではありません。ひとつのストーリーをまとめ上げるのに必須の枚数というのは存在しません。壁に並んだ作品のうちのいくつかが、見る側の心に届き、時には射抜かれるような衝撃だったり、一杯の水が体全体に染み渡るような感覚であったり、そういう体験をしていただけることを期待しながら作品をまとめ上げるものです。枚数が多くても少なくても優れた表現は見るものの眼を釘付けにして、その場でしばし足を止めさせる力を持っています。
ディレクターであるぼくの役割とは、しばしば思いがとめどなく溢れ、枚数が増えがちな作家さんの仕事を一旦受け止めて、このまま展示した場合、点数を半分に絞った場合の両方の印象を伝えて作家さんに判断を仰ぐことです。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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