夢はただ一つ

長期滞在者

eyecatch

夢はただ一つ、暗闇の腐肉を食い開き、お互いの魂の光を見つけ続けることだけだ。

あなたがはじめて孤独を感じた瞬間はいつ?自分が本当は誰とも繋がっていないと、はじめて意識したのはいつ?

僕は7歳の頃でした。汚ない校舎裏の庭が、咲き出したリンゴの花で埋め尽くされていた。エデンのよう。木の下に座った僕が日が暮れるまで永遠と小さな白い花を見つめ、ぼーっとしていた。雪のような白い曼荼羅、真ん中に赤い花粉、乳房のよう。その乳房に食いついて、花から漏れた美のミルクを飲みながら、僕はただただ風を聴き、太陽を感じ、まだ冷たい土の香りを嗅いだ。蕾が僕の人生の答えを全て持っていたと感じた。そして目を閉じ、花は僕、僕は花、と頭の中で唱えた。そう、その目を閉じた瞬間に僕はそこに自分がいると意識した。

自分の存在が確かにここにあると確信した。

そしてその気づきが雷のようで、恐ろしかった。その全てを感じるのは誰? 気づいた途端に自分は花では無いと解った。一人?どこへ向かう?時間がなぜ僕の中に流れている?花はなぜ白く咲き、散るのだ?並べた質問を母親にぶつけた。唖然とした母親は答えを持ってなかった。

そしてその日から僕は一生「ここにいること」を忘れようとした。自分の存在の上に、レイア一つ一つ、元が見えないまで重ねていた。

夢はただ一つ。
暗闇の腐肉を食い開き、お互いの魂の光を見つけ続けることだけだ。

その時に恋をした。
彼女の名前はカチャ(エカテリーナの可愛い呼び方)。クラスの席は斜め右一番前。勉強の出来ない不良には届かない、入ることできない別国だ。年をとらないベイビーフェイス、広いおでこ、隅に描かれたかのよう綺麗な眉毛、割れたバラの果実のような真っ赤な唇。泥のような学校で咲いた蓮。カチャ。体中に痺れが走るまで恋をしていた。胸から萌え上がったモヤモヤが収まらず、毎日日記で彼女への詩を書いた。目線をもらうために、周りに座っていた生徒達を全員ボコボコにしていた日々、学校中の連中を自分の敵に回した。カチャだけには触れることが無かった。
感じたことは真実と信じて、彼女が僕にも何も感じてないだなんて思いもさえしなかった。心に生まれた気持ちは必ず世界と繋がる。最多真っ白なリンゴの花の美しさを抱く心、必ずそこにはあると思った。しかし一方の道は何も無い(空の?)地平線にしか繋がっていなかった。

3年間、彼女が僕の方へ振り向くことは一度も無かった。

テレビで流れていた子供向けのクリスチャン番組でイエスのことを知った。イエスは全てを受け入れて、誰の話でも聞いてくれると知った。子供には解くに優しい神様だ。きっと僕の願いを聞いてくれるだろうと、番組宛にイエスへの手紙を書いた。返ってきたのは子供向けのバイブル。イエスはカチャより優しかったがカチャへの想いを埋めてくれなかった。

中学校になり、一人の女の子が特別にと、僕に秘密を教えてくれた。女子トイレの壁にはカチャの手で僕の名前が書かれていたという秘密だ。慌てて、女子トイレへ走った。そう、ドアの向こうには希望と言う名が緑の壁に書かれて、僕を待ってる。小学校の男子の妄想のアペックス、ネフェルティティの石棺。ドアノブを握った手には震えが無かった…

ドアの向こうには甘い香りとペンキが剥がれている壁しかなかった。希望という名が、ネフェルティティの顔のように、とっくに虫に食われていた。
女子トイレを出て、すぐ近くにあった窓に向かって僕は泣いた。窓台に散らかった消しゴムのカスが肘についていたのは良く覚えている。僕の孤独がそこで初息をはいた。

そう、夢はただ一つ、暗闇の腐肉を食い開き、お互いの魂の光を見つけ続けることだけだ。