当番ノート 第9期
できる限り、 できる限りの言葉を、素直にしるしたい。 ここに、最後に。 私のこれまで。生きてきた毎日。その中で知ったこと、出会えたもの、人。 そういうものでねじ曲がってゆく、私にとっての世界。 それをどうやって表そう? どれだけ格好つけずに、偏らずに、ありのままを受け止められよう? そういう自分でいられるだろう? この二ヶ月、言葉というものを じいっと見つめていた。 私の内…
当番ノート 第9期
子供たちがどんな風に成長し、大人になり、 どんな仕事をして、どんな家族をつくるのかを見届けたい。 そして、彼らの子供たちがどんな風に育つのかも見たい。 では、その先の、その先の、その先は? 僕も祖先にそう思われて生まれてきたのか? 自分の未来を具体的にイメージすることは難しい。 いつも現在地点を確かめることで精一杯だ。 けれど、カメラのファインダーを通して、 子供たちを眺めていると不思議といろんな…
当番ノート 第9期
「ただいま」 そして私は、買ってきた、マカロニサラダをテーブルの上に。 続いてポケットの中の釣り銭、その硬貨数枚をひとつかみに取り出して、押さえつけるように「がちゃり」 と据えた。 テーブルの上に置かれた硬貨数枚は、「ぽん」と押された猫の足跡のように並び、それはなんだか今日一日を、「終わったねぇ」と承認した、肉球による捺し印みたいで、私はちょっと安心する。 それはつまり、まだ一度も別れ…
当番ノート 第9期
ナモナキスベテニサクモノタチヘ RACHI SHINYA / WEB
当番ノート 第9期
夏休みの最終日。 ぜんぜん宿題をやっていなくて、夏休みの前半の出来事や天気なんて全然もう思い出せなくて、 それでもなんとか必死に振り返りながら、絵日記を完成させた。 もう、あれから20年くらい経ったのに、 まったくそれを彷彿させる、毎週木曜日は、夏休みの最終日。 この2ヶ月間、わたしの当番である金曜日の前日の木曜日は、いつもそんな気持ちを思い出した。 2ヶ月前。 タカヒロさんからアパートメントへ声…
当番ノート 第9期
梅雨に入ったころに 始まったこの連載も 今週で最後。 すっかり季節は夏ですね。 合計8回の連載の中でいろんな切り口から 自分って人を伝えられたらと思ってきましたが 巧く伝えることはできたでしょうか。 自分的には全く伝えることが出来なかったなと。 ちょっと後悔しています。 でも中には わかったよって 言ってくれる人がいて その人の中に自分という人間が どんなかたちであれ存在してくれていたら また新た…
当番ノート 第9期
昨日、初めて救急車を呼んだ。 私のためではなくてお兄ちゃんのために。 兄の意識ははっきりとしていて、 「まり、」 そう一言。いつものように部屋の戸の外側から声をかけられた。 「なーにー」と、これまたゆっくり私が返事をすると反応がない。 何だろうと思って部屋を出ると苦しそうに屈んでいた兄が、「救急車呼んで」と。 電話をしたあと、救急車は思いのほか早く到着した。 結果から言うと兄はそこまで大事にも至ら…
当番ノート 第9期
僕が、誰かの写真を撮らせてもらうときにお話していること、 それは、今ではなく、20年後、30年後のような未来のことだ。 そのとき、その写真を眺めるあなたや そこに一緒にいるかも知れない誰かのことを想ってもらえたらと。 そして、ほんとうの月日が過ぎたときは、 そこに写る自分たちのことや写っていないいろんなことを 思い出してもらえたらとても嬉しい。 写真は未来にのこすタイムカプセルであり、 過去へとつ…
当番ノート 第9期
朝、校門をくぐるずいぶん手前で、私の影が空に落ちていくのを見た。よく晴れた空の、鈴の音のような白い雲の隙間、どこからでも転落しそうな青いプールに、まっすぐ、綺麗なフォームで飛び込んでいった。 四月の桜並木が、風にくすぐられている。校舎の窓が、いくつかもう開いているのが見える。 先週まで姉妹みたいに遊んでたみぃちゃんが、今日はスーツを着てあそこにいる。きっと緊張してる。どうしよう、私、すごくう…
当番ノート 第9期
これは政治じゃない、生活だ。 とても上手く説明なんて出来ねーよ、バカだから。 でも何がおかしくて、何がおかしくないことくらいわかるよ。 起こってる事柄は理屈だよ、構築された事実だよ。 嘘がバラまいたピラミッドだよ。 でもその震源は、いつだって心のはずだろ。 人は何かを感じて、何かを起こす生き物なんだ。 純度ある物事の動きには、感動があるんだよ。 何年も前から、何十年も前から、知ってるやつは知ってる…