当番ノート 第15期
その日は新宿御苑の事務所にこもっていたところ、野暮用でついと外に出て、また事務所に戻る途中、花園小学校の脇で地震に遭遇しました。 横を走っていた車がぐにゃりとハンドルを切って停車し、おやと思った瞬間に電信柱が風になびくススキのように揺れ、往来を歩いていた人びとが一斉に目の前の花園小学校の校庭になだれ込んでいきました。校庭から見ず知らずの人々と肩を寄せ合いながら眺めていた、コンニャクのごとく揺れるビ…
当番ノート 第15期
青々とした稲粒。 花を咲かせたあと、稲穂はどんどん栄養をたくわえて、実入りします。 八月初旬、田んぼは、一瞬、ぐっと静かになります。不思議なほど、しんとする。 しっかり実をつけるための時間。 農家は、淡々と、草をとって、水をみて、田んぼの世話をする。 写真をみると、波打つ緑は、とても涼やかなのですが、 実際、この時期の田んぼは、かなりハード。 ジリジリと照りつける陽射しと、脳が溶けるような暑さに、…
当番ノート 第15期
パンパンに張った二個のスーツケースを引きずりたどり着いたシドニー。まるでそこはテーマパークに迷い込んでしまった様な感じがする不思議異空間だった。圧倒的な白人文化が街中に溢れかえっていたものの、そこはアメリカとも違う、イギリスでもない、カナダとも何かが違った。ハワイに似ているのだけど、何故かぼくは空気の中にそこはかとなく乾いた鉄の赤さびが朽ちてゆく気配をいつも感じた。そんな中で唯一の救いはオーストラ…
長期滞在者
旧作品をぼくのギャラリーで再構成して展示する場合、作品のセレクトや展示構成のプランは大抵の場合ぼくがやることになります。ぼくがセレクトをやる場合のポイントは、最初にメインイメージを3点から5点確定させることからはじめます。 写真展とはおかしなメディアで、例え会場に40枚のプリントが並んでいたとしても、その全てを記憶出来るかというと、かなり難しい。それどころか、写真展を見たあと、数日のうちには、行っ…
the power sink
こんばんは!今回も無意味な絵を載せる。 自分はすごく無意味な絵を描いているつもりになっているんだけど、ただ集中力がここ数年欠けているだけなんだね。 見ていただけると嬉しいです。それではよろしくお願いします! さて、普段から僕はもう、無意味な事に従事しすぎて、やれる事といったらほおずえをつくだけ、思いつくのは気味悪い形の花のようなものだけになったんさ。おかしいね。やっぱおかしくないか 花屋やる 心臓…
当番ノート 第15期
覚えているのは14の夏、昼寝から目覚めた瞬間のこと。いまここで命を絶って、彼岸に渡らねばならない。衝動というよりも確信に満ちた思いで縊死の準備をしている最中に母が帰ってきて、その試みは頓挫しました。 以来つかずはなれず寄り添う希死念慮と共に生きてきました。 4年前を境にたもとを分かち、もうまみえることはないだろうと思っていたそれが、この春ふたたびわたしの元に帰ってきました。 今、それはだいぶ小さく…
長期滞在者
先週末、6月27日から29日まで、アクセル・ヴェルヴォールト氏主催のインスピラトゥム・フェスティバルにダンサーというかパフォーマーとして参加した(アクセルは、ぼくの陶芸作品の顧客でもある)。作品名「Destroy the picture, painting the void」。ここ数年、日本の具体芸術に入れ籠んでいるアクセルの命名。 バロックアンサンブルのイルポモドーロの演奏するヴィヴァルディ『四…
風景のある図鑑
「ガラス : glass」 ガラスは完全な個体ではありません。 完全な個体とは、分子が規則正しくならんでいる結晶の状態のことです。 ガラスは「アモルファス構造」という、 液体を急激に冷やすことで凍結したような状態になっているのです。 (粘度が極上に高くなった状態とも言えます。) そのため、ガラスは長い時間をかけて、重力に従い液体のように流れます。 しかしそれは大変ゆっくりで、数千万年で数パーセント…
当番ノート 第15期
苗が、分けつを繰り返しながら育ち、稲葉になる。 そのなかに、葉っぱのような、茎のような部分ができます。 それが、葉鞘。 「はざや」の中に、ぎっしり詰まって、眠る稲粒たち。 7月の終わり~8月のはじめ頃になると、 稲は葉を増やすのをやめ、茎のなかで穂をつくりはじめ、 お米の入れ物である籾殻(もみがら)を形成します。 やがて穂は、葉鞘から生まれでるように、外へ出て行きます。 それが、出穂。 「しゅっ…
当番ノート 第15期
それから一週間ほどの間、ぼくは彼と連絡を取ることを一切止めた。不機嫌な奥さんへの恐怖に翻弄される彼の姿を目の当たりにした後、”徹底的な習慣化してしまった奥さんの支配から解放されるために立ち向かうだけの肝っ玉、ガッツを彼は持ってるだろうか?”と何度も自問した。自分の真っ赤に煮えたぎった頭を冷やすためにも、彼から完全に離れた時間と空間がぼくには必要だった。その間にも彼からは一日に何通ものメールや留守番…
イルボンと小鳩ケンタの空席商会
◇出てくるひと(順不同・敬称略) イルボン(gallery yolcha車掌/詩演家):以下、車掌 小鳩ケンタ(詩人):以下、鳩 小澄源太 (アーティスト、プロダクト:yes!yes!非非 企画監修):以下、源太 福永奈津(プロダクト:yes!yes!非非 デザイナー):以下、奈津 ◇◆◇◆◇ 【2014年6月の相席】 2014年6月5~15日、小澄源太×イルボン「被んぶりあ紀」 yolcha内に…
長期滞在者
ワールドカップで盛りがる祖国の様子を、最近よくテレビで目にする。歩く人々の姿、生活、美しい風景。目にする様子は様々だけれど、その度に胸がきゅうと締め付けられ、苦しくなる。わたしがいない、あの国。わたしのいない、年月。言ってしまえば、わたしはいつだって不在だった。わたしは、いまでもあの国のほんの一面しか知らないでいる。 某テレビの特集で、ブラジル生まれのサッカー選手たちのドキュメンタリーを観た。…