当番ノート 第28期
suicide cats in seaside① suicide cats in seaside② suicide cats in seaside③ suicide cats in seaside④ 「こっちだよ。」 もう一度アマリの耳元で、洞窟の中で反響したような声がする。 ムジャンはどこまでも沈んでいき アマリは遠のいていくその眼差しを捉えることしかできない。 毛むくじゃらを救済し、初めて目を…
長期滞在者
「家族はどうしてるの?」 恩師に何気なく聞かれ、思わず言葉に詰まった。元気そうだよって答えたけれど、心中なんと答えるべきなのかわからない。そもそも、家族とは2万キロもの距離を隔てているし、彼らと連絡をとることはほとんどない。元気そうにしているのは、Facebookごしに見ているけれど、ネット上で見ることのできるのは、多分人生の良い面だけで、彼らがどんな生活をしているのか、実際のところわたしには何も…
当番ノート 第28期
お疲れ様です。 僧侶の鈴木秀彰(すずきひであき)です 今回で最終回。 これまでお付き合いいただきありがとうございました。 前回は、今後どのような活動をしていきたいのか、お話させていただきました。 まず、僕は「仏教を伝えながら、その人自身の良さを引き出し、自信をつけられるようなお手伝いをする人」でありたいと思っています。 僕自身、過去自信をなくし、結果的に現実から逃げていました。そのとき、誰か、アド…
当番ノート 第28期
白い絹のシャツと黒い半ズボンに、安っぽいサンダルを履いた少年はふいにこちらを見た。薄いまぶたの一重も、短く乾いた黒髪も、私の知る島の誰にも似ていなかった。 それから彼は、ぎょっと目を大きくさせた。 「ああっ、もしかして、ときこさん?」 そう声を上げて、水を出したままホースを落とした。私もぎょっとしたまま生垣の陰から動けないでいると、彼のほうから近付いてきた。ホースから水は出てるばかりで、乾い…
ギャラリー・カラバコ
ここはとあるアパートの一角にある、小さなギャラリー「カラバコ」。 白い壁に空っぽの額縁が無造作にならび、その下には題字だけが添えられています。 タイトルだけを頼りに、二人の作家が別々に文と絵を寄せ、2つが合わさった時に初めて作品が完成するのです。 01 桟橋 02 物差し 03 帯 04 時化 第5回は、「吃り」 「どもりはあともどりではない、前進だ」という音楽家の言葉を教えてくれた先生がおりまし…
当番ノート 第28期
慰霊碑の前にはあらゆるものが置かれていた。 缶ビールや缶ジュースが置かれているのはテレビでも見たことのある光景だったけれど、ぬいぐるみにアクセサリー、トランプやギターまで並んでいるのを見て驚いた。花束を包むセロファンがホールに吹く僅かな風を受けてさざなみのように揺れた。僕はそれを数メートル離れたところにあるテラスから、ぼんやりと眺めていた。 僕の左にはアズマが、右には金田が座っていた。ふたりとも静…
当番ノート 第28期
韓国で美容師をする、という仕事の話になるが、 自分の中では、お客さんに向き合うとき、韓国人と日本人で接客を切り替えてやっている。 カット入るまでの最初のカウンセリングからぜんぜん違う。 理由は、やはり双方にいろいろな違いがあり、同じやり方では対応できないからだ。 例えば、次のような感じである。 韓国人の希望するスタイルの特徴は、 「なんもしなくても良いように」 「ボリュームほしい」 「この写真とま…
当番ノート 第28期
suicide cats in seaside① suicide cats in seaside② suicide cats in seaside③ 背中にぺたりと張り付いたムジャンの濡れた毛並みは潮風で少しずつ乾いていき、 灰色のそれはアマリの背中をそわそわと撫でる。 くすぐられているような感触に時々笑ってしまいそうになるのをアマリはこらえた。 背中に感じる毛むくじゃらの重みは不思議と頼もしかっ…
当番ノート 第28期
お疲れ様です。 僧侶の鈴木秀彰(すずきひであき)です 今回で第8回目。 今回も含めてあと2回になりました。 前回は、現在感じている僕の葛藤について、お話させていただきました。 周りの方からの僧侶に対する、ある意味願いとも言える「信念が強く、何事においてもぶれない」というイメージ。改めて、他人から自分はこう見られている、こういう存在であってほしいと期待されていることを感じました。 今、僕は有髪の僧侶…
当番ノート 第28期
一つめの嵐が去った朝、そして二つめの嵐が来る前に、私とモリヤさんは外へ向かうトラックの荷台に乗せてもらった。トラックは日に一度、食料だとか外でしか手に入れられないものを届けてくれる役目のものだった。口数は少ないが気の良いおばさんが運転手で、見返りも求めず乗せてくれるのだ。 もう少しいる予定だったんですけど、とモリヤさんは言う。 「次の仕事があるし、この島には休みがてら来たのでそう長引かせるわけ…
当番ノート 第28期
雨の日が続いた。 僕は自分の記憶を探ることを一旦辞めて、部屋の片付けをしたり、簡単な食事を作るようになった。医者から貰った薬が合ったのか、この前同期と会って話したせいか、以前よりも前向きな気持ちで過ごしている実感があった。相変わらず眠りは浅かったけれど、数日に一度はぐっすりと眠り、腹を空かせて起きることができた。 僕はキッチンに立つと、食パンを切り、丁寧にマヨネーズを塗り、胡瓜とハムをはさんで食べ…
長期滞在者
もう二十何年も前の話だが、劇団に所属して舞台活動をしていた頃、指の先端から各関節、体の重心の移動・受け渡しというものを全部意識の上に引っ張りあげながら、全身にテンションをかけてとにかくゆっくり動いてみる、というエチュードを、劇団のトレーナーに指示されて身体訓練の一環として行っていた。 いつもは無意識の領域に委ねている身体各部の動きを、全部意識の表層に引きあげてから動くことで、まずは自分の体との対話…