長期滞在者
エキセントリックが普遍を射る瞬間、ということを考える。 中心を射ることが出来るのは外周に位置する者だけである。 変人と揶揄されるカナダのピアニストが弾いた「奇矯な」バッハが、古色蒼然に思われていたその楽譜に新たな命を吹き込み、音楽というものの根底を揺さぶるような力を掘り起こした。その力はバッハの譜面の中にすでに描かれていたのだけれど、「中心」にいる人達にはその力がもう見えてなかったのだった。 もち…
当番ノート 第32期
「きたー!」「着いたね!」 想像以上に登りごたえのある道を登り終えて、 私たちは衣張山の山頂にたどり着いた。 山頂からは、海と山に囲まれた鎌倉の街が見渡せて、 歴史の授業で鎌倉は攻められにくく守りやすい地形だと習ったことを思い出す。 山には深い緑色の木々がこんもりと広がっている。 海と空は淡い群青色で、どちらも似た色をしているから、境界線が曖昧だ。 空には白い雲がふんわりとたちこめていて、雲の切れ…
当番ノート 第32期
大学2年生の夏休み。 神戸から東京へ走って帰ろうとした。 そこに比喩とかはなくて、走って帰ろうとした。 荷物はハードカバーの本が入らないくらいの小さなリュック一つ。 中身は、スマホの充電器と 何万円かチャージしたSuica、財布 それと、Tシャツとランニング用パンツ ほとんどノープランで、 なんとかなるかなあと思っていた。 結論から言うと、そんな甘いことはなかった。 神戸から三重県伊賀市で諦めた。…
長期滞在者
学生の頃からお世話になっていた「天下一品」「こってり」ラーメンはふた月に1度は食べたくなります。先日も出先から江古田のお店に立ち寄りました。関西発の青春の味ですが、その関西出身者たちが関東でも本物の味だと認めるいくつかのお店のひとつです。 通称「天一のこってり」この食べ物の特徴はスープで、麺は若干水っぽくて柔らかく、上に盛られる具材にも驚くようなものは特にありません。ぼくの場合「チャーハン定食」を…
当番ノート 第32期
あれだけお稽古したはずなのに、やはり白い紙に向かうと、恐い。それは自由に書けばいいと言われているようでもあり、と同時に、見えない罫線が張り巡らされているようにも見えるからだ。せっかく作品のアイディアが浮かんできても、いざ紙に向かって筆を入れてみると、それは見るに耐えない字だったり、思い描いていたものとは全然違ったりする。せっかくのアイディアは、その瞬間に墨の泡となって消えてしまう。 もっと、思い描…
当番ノート 第32期
おひとりさま、にいつから慣れていただろう。 私が物心ついた頃には、ウチには母親しかいなかった。父親がいることは知っていたし、たまに会う事はあったけど一緒には住んでいない。そんな状況を、今思えば子供ながらどう捉えていたのかは、よく覚えていない。母は普段仕事に出ていて、日が暮れてから自転車で帰ってくる。ブレーキの音で母親が帰って来た事に気づく。薄暗い家に響くブレーキ音を、今でも何となく覚えている。兄が…
長期滞在者
Love is・・・に続くあなたの言葉は? と問われて、 私は時間をかけて、自分自身の中に息づく愛を探した。 「あなたにとっての愛とは?」 これまでにも何度だって聞かれてきた。 Love is・・・の問いを投げかけられたのは、今年のTOKYO RAINBOW PRIDEの会場でのこと。 “性的指向や性自認(SOGI=Sexual Orientation,Gender Identity)のいかんに…
Mais ou Menos
まちゃんへ 今年のゴールデンウィークは、いつもに増して素晴らしい休暇でした。 姪っ子を見に行ったり、ストリップ見に行ったり、博物館行ったり、ペレードに参加したり、刺繍をしたり……大変盛りだくさんで、初めてのことも多く、すごく刺激になりました。 どれも印象に残ってるんやけど、ペレードに行ったときの気持ちを書きたいと思います。今年初めてパレード(プライドパレード)に参加できたことを、すごく嬉しく思って…
当番ノート 第32期
妻に草間彌生展に誘われました。 草間彌生展なんて、ミーハーなやつらがデートするか美術かじった難しい顔してるやつらでどうせ溢れてて、パシャパシャ写真撮りまくってるだけなんだろ! 自分は集中力も無いし、興味もないし、とうんたらかんたら言ってたら、 心が荒んでいると心が狭くなるらしいよ、と妻に諭され首を掴まれた犬状態で六本木へ。 さて、芸術やアートの事は歴史も鑑賞方法も全く分からないし、そもそも草間彌生…
当番ノート 第32期
翌朝、目を覚ますと部屋に寝ているのは私だけで、横に並んでいる布団はみんなきちんと畳まれていた。 どうやら私が一番の朝寝坊らしい。 布団をめくって、うーんと背伸びをする。 障子から差し込む朝の光が心地よい。 今日もお休みで、気ままに過ごせる1日なのだと思うと嬉しくなる。 連休が取りづらい仕事で、夏以来連休が取れていなかった。翌日仕事だと思うと、休みの日でも気持ちが安らげなくて、いつも疲れていたような…
当番ノート 第32期
頑張れっていう言葉はあんまり好きじゃなかった。 頑張っている人には頑張れなんて言う必要はない。 頑張ってない人にだけ言えばいい。 だから、頑張れという言葉は 「頑張ってないように見えるぞ」 という意味なんじゃないかと思っていた。 高校野球の応援は、今でもよく覚えている。 バックスクリーンに反射する掛け声、 グラウンドを揺らすブラスバンド。 湿気のある夏の球場にはたくさんの応援があった。 特別に野球…
当番ノート 第32期
青山杉雨に金子鷗亭、手島右卿、篠田桃紅、石川九楊、柿沼康二… 昭和から現代まで、好きな書家の名前を挙げればキリがない。(もちろん今のパリの先生も。) 私が好きな書には、何か共通していることがあるのかなと思って、そういう視点でもう一度画集を眺めてみる。黒と白のバランス、力強さ、モダンさ、空間の取り方・見せ方、線の美しさ… どこか光があり、風が吹き抜けていくような感じがあるとこ…