長期滞在者
今となっては考えられないことだけれど、到着する日の宿泊の予約さえせずに、わたしはひとりインドに旅立った。帰りの飛行機は3週間後。唯一の計画らしい計画は、ガンジス川を見ること。ほかは何も決まっていない。黄色の小さなデイパックのなかには、替えのTシャツ・下着が2-3枚、ストール、洗面具、筆記具、持っていくか最後まで迷ったラップトップ、直前に無印良品で買ったアイマスクとエア枕 (これに関してはけっきょく…
当番ノート 第37期
2月26日(月) 朝起こしてもらうと、もう7時半になっていた。飛行機が飛ぶの、9時15分なのに! 朝ごはんをかきこんで歯を磨いて荷物をまとめる。名残惜しむ暇もない。 お母さんが車で送ってくれることになって、わたしとお母さんが先に車に乗りこむ。恋人さんだけお父さんに呼び止められて、お父さんは恋人さんに戸籍謄本を渡して、何かを言いながら恋人さんの手を強く握っていた。 恋人さんも車に乗り、お父さんに手を…
長期滞在者
「日本のモノ作り神話なんてとっくに崩壊しているよね」「技術大国日本なんて、もう過去のことだよね」というコトバがしばしば交わされるようになりました。 ぼくなどは「モノつくり神話」という言葉自体「神話」だと思えるリアルな体験もしたことがないのですが、それはともかくとして、冒頭の表現は置かれている立場によってさまざまな意味を包み込んでいるように感じます。そのひとつとして、かつてほど日本の技術力は抜きん出…
当番ノート 第37期
(いつか伊勢参りに行ったときの写真です) 本稿では、私にとっての青春を共にした人、さとしさんとの再会について書いていく。 前稿の最後に記したように、私はとかく怖かった。 ここ数年間、たびたび去来していた「大切な’何か’を失ったのではないか」という 感覚への答えを、さとしさんは持っていると思っていたからだ。 私は、さとしさんからどう見えるのだろう。 再会を経て、私は、人と人と…
Mais ou Menos
まちゃんへ 元気ですか? 自分は最近元気じゃなかった。 この時期毎年新しいことが始まったりで落ち着かない日々を過ごしている気がする。 自分の今やっている仕事について悩んだり、これからのことについて悩んだり、いつも悩んでばっかりですが、改めてまちゃんと生きていられることに感謝をしています。 自分のことをよくわかってくれている人がそばにいるだけで幸せなことなのに、すぐに不安がってしまう。自分だけで苦し…
長期滞在者
折坂悠太さんのライブをみた。 目をあけていると、きょろきょろしてしまうので、時々、目を瞑った。 「つもる話の山肌を/ひとつ語らず下って行く/茜色した街並みを/時々見下ろして」 「見慣れないものだけの朝/懐かしいものだけの夜/茜色したおれのこと/思い出せるかい/思い出せるかい」(茜) 語らぬことを自ら選んだひとつ、語る言葉に成り得なかったひとつ、案外、そういう言葉こそがいつまでも残り、一緒に見た景色…
当番ノート 第37期
2010年10月から2011年9月まで、夫と一緒に、ドイツのベルリンに住んだ。 2度目の大学を卒業する頃「海外で活動したい」という思いが強くなり、卒業した年にワーキングホリデービザを取り渡独。 スタジオを借りて稽古したりレッスンを受けたり、美術館やギャラリー、舞台を鑑賞したり、ドイツ以外の国に旅をした。 友人のFranziskaと街中を走り回って、夫に写真を撮ってもらったり。 Miss Hecke…
the power sink
とにかくやっとの事で何枚かの絵を描いた。やっとの事で絵を描くのは馬鹿のする事だと思う。 だから頭が悪い上に性格の悪いおじやんが描いた絵になった。現状僕は頭が悪い上に性格も悪いおじやんなんだ。 でも明日から勉強すれば半年くらいで性格もかなり良くなると思うし、頭もかなり良くなると思う。元気を出して頑張りたい。 それではよろしくお願いします! なんかすごい恐ろしい、人間を全員…
当番ノート 第37期
雨の日の夜に、喫茶店に来る。 雨の日の喫茶店は、とても好き。 雨に濡れない安全なところにいることを感じられるし、元気でいなくても、罪悪感がないから。 喫茶店て少し不思議な場所だなと思う。 それぞれが1人の時間を過ごしに、人がいる場所に来る。一人一人観察したいけれど、あんまりじっとも見られないから、横目にちょっとずつ見る。 カフェオレボウルに入ったたっぷりのカフェオレが運ばれて来る。嬉しい。 喫茶店…
風景のある図鑑
ペンローズ・タイル : Penrose tiling どのような図形なら、平面を隙間なく埋め尽くすことができるのか? 有限個数の図形で平面を埋め尽くす操作を平面充填といい、その方法を探すことは古代から数学者、建築家、芸術家の関心事でした。 ペンローズ・タイルは、数学者のロジャー・ペンローズが1970年代に発見した平面充填の方法です。「ダート(矢)」「カイト(凧)」と呼ばれる2種類の図形で平面を埋め…
当番ノート 第37期
2月19日(月) エロデューサーの佐伯ポインティと、ツドイの今井さんと一緒に某たのしい企画の下見で湯河原へ。朝早く起きたのだけど、恋人さんが気持ちよさそうに眠っていたので(と、人のせいにして)5度寝くらいしたら、11時になっていて、化粧もそこそこに駅まで走る。こんなことなら、もっと早く起きればよかったといつも思う。でも気持ちよく眠っていたのだから、それはそれでいいことにする。 駅に着いて乗れる電車…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
旅をすればするほど世界は身近に思われるようで、私の場合は途方もない広さに圧倒される。 世界は広くて、生涯で出会える人は限られているんだと思い知る。そのぶんだけ、自分と接点があった人や場所に特別な意味を見出したくなる。その意味をひとつひとつ吟味するには心のボウルの容量の限界を感じる一方で、「この出会いは特別」というようにきらきら光を放ちながら、こちらに向かって近づいてくることもあると感じている。 イ…