長期滞在者
台湾へ旅行したとき、友人がインスタントカメラをくれた。古道具屋で見つけたという古いカメラを手にしたわたしたちは、こどもの遊び相手のお人形みたいにいつでもカメラを持ち歩き、いつでも誰かが誰かを撮った。旅先から自分の日常に戻り、わくわくしながら現像に出したら、あまりに古いそのカメラにはほとんど何にも写っていなくって、茶色いテキスタイルみたいな、だるんと長いネガだけが戻ってきてガッカリしたのだった。しか…
Do farmers in the dark
以前までここアパートメントでボールペンの絵を載せていたのですが、今月から絵を少なめにしました。ひどく退屈な文章などを載せていく予定です。今回の第一回目は主には食べ物と女性の事について書いています。 Do farmers in the darkの意味は「暗いところで農家をやる」という意味です。なんとなく最近そういう気分です。 ではよろしくお願いします! 第一回 海辺の町で猿になりそうな…
当番ノート 第39期
アルゼンチンタンゴの古い名曲に「Loca(ロカ)」という曲がある。初めて聴いたとき、切なくも華やかで、一抹の滑稽さもあるこの音楽のことをとても美しいと思った。「ロカ」という音がかわいいこともあって、私のこの曲へのイメージはどことなく「少女」じみていた。 しかしその後、曲名の意味を調べてみてへえっと思った。 Locaとは、「狂った女性」という意味だったのである。 * 狂っている、という言葉…
当番ノート 第39期
だれかを失った場合、われわれはその亡き人、いなくなった人が実体のない想像上の存在になってしまったことを悲しむ。 しかしわれわれがその存在をなつかしむ気持ちは架空のものではない。自分自身の奥底まで降りて行こう。・・・その不在はまさしく現実である。その人が死んでからは、不在がその人のあらわれかたになる。(シモーヌ・ヴェイユ 『重力と恩寵』 春秋社) ・ ・ ・ ・ ・ 19歳から21歳くらい…
長期滞在者
特別な経験よりも何気ない日常に光をあてることに、私は面白さを感じます。 私の住む家は20代後半から30代半ばの男女が5人住んでいます。 それぞれが個室を持ち、何か困ったことがあれば話し合って暮らしています。 この連載では家で起きたことを日記形式で綴っていきます。 こんな世の中にこんな生活があるのだと、愉快に思っていただけたら幸いです。 ※住人のプライバシーを守るため、名前は仮名を使用しています。 …
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
彼女のフェアなところが好きだ。 時々「きっつーい」と思うけれど大概その場で納得してしまう。だからあれだけ欠点や誤ちをビシビシご指摘いただいているにもかかわらず、嫌な気持ちを抱いたことがない。むしろ、ちゃんと言ってもらいたくて、ひとに言えないことほど彼女にだけ話してきた。 そういえば長い間、彼女はあまり自分のことを話さなかった。代わりに家族や学校生活や趣味についておもしろ可笑しく親しみを感じさせなが…
当番ノート 第39期
アルゼンチンタンゴにハマっている。聴くのと踊るのと両方だ。週に1回か2回はレッスンに行き、家でも毎日30分から1時間は練習をする。朝起きたらタンゴのCDかコンサートのDVDを流す。 いったいなぜ? きっかけは? その質問に対して、端的に答えるならこれしかない。「嘔吐です」だ。サルトルの書いた小説のことではない。リアルな、肉体的行為としての嘔吐である。 * ほんの3ヶ月ばかり前のことだ…
長期滞在者
先月初め、娘の誕生日を彼女より少し年上の息子と 彼らの母親と一緒に祝うためにヘルシンキに一週間ほど滞在した。 到着して数日間はまだ5月初めとしては異例の寒さが続いていて、 天気は良いのだけどダッフルコートが手放せなかった。 彼らの住んでいるところから徒歩20分くらいのところに とても設備の整った室内プールがあるので、 ヘルシンキに行くときは必ず何度か泳ぎに行くことにしている。 そこは10レーンもあ…
当番ノート 第39期
はじめまして、モクです。 これから2ヶ月間、ここで連載をさせていただくことになりました。 平成6年生まれ、現在23歳です。 親の仕事の関係で小さい頃から引っ越しが多く、幼稚園を2校、小学校は3校通いました。 同じ県内でしたがそれぞれの学校にカラーがあって、そこにいる生徒や先生もちょっとずつ雰囲気が違っていました。 上京するまでの最後の7年間は、新潟市の小さな海辺の街で暮らしました。 家の裏には防…
当番ノート 第39期
ご無沙汰しています。 お元気ですか? 最後に会ったのは、今年の頭。2017年を無事に終えた感謝とこれから始まる2018年を祈願するために、天狗で有名な神社に行ったのが最後かな。広々とした境内、太く長い杉の木に囲まれていて、大きな門の入り口を抜けて歩いていくたびに「囲まれている」という感覚になった。しばらく会えていなかったから、最近のこと、家族や仕事のこと、好きなことや好きじゃないことを話したような…