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2F/当番ノート

夜明けにドアを開けると潮風の匂いがした

当番ノート 第39期


はじめまして、モクです。
これから2ヶ月間、ここで連載をさせていただくことになりました。
平成6年生まれ、現在23歳です。
親の仕事の関係で小さい頃から引っ越しが多く、幼稚園を2校、小学校は3校通いました。
同じ県内でしたがそれぞれの学校にカラーがあって、そこにいる生徒や先生もちょっとずつ雰囲気が違っていました。

上京するまでの最後の7年間は、新潟市の小さな海辺の街で暮らしました。
家の裏には防風林があって、そこを抜けるとあっと言う間に海でした。
夜が明けた頃に玄関のドアを開けると潮の匂いでいっぱいで、それを思いっきり吸い込んだものでした(時間が経つと次第に色んな場所から行き交う自動車や人の生活の匂いが混ざって分からなくなっていくのです)。

12歳の時に中学受験をして、中高一貫校に通うようになりました。カトリック系の女子校で、先生の他にシスターがいて朝と夕方には主の祈りを唱えるような学校でした。宗教の授業やミサ(祭礼)なんかもありました。でも、そこは当時の私にとってどこか息が詰まるような場所でした。

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高校生になってから画塾に通い始め、そこにいる一風変わった先生や先輩たちとの出会いが、それまで淀んでいた自分の毎日を明るくしてくれました。

そうして18歳の時に上京し、東京の西の方にある美大に進学しました。
デザインの勉強をしていましたが、最終的には写真を撮るようになりました。大学での授業や課題は、知識や技術に関してはあまり教わることはなく、それぞれがほとんど独学でした。色々な「ものの見方」を学んだという方がぴったりくるような気がします。

仕送りがなかったのでアルバイトもしていました。民俗資料を整理したり、一升瓶から徳利にお酒を注いだり、撮影を手伝ったり、色々なことをやりました。

何より東京に出てきてから出会った友人や大人たちは、それまで自分の世界にいなかった人たちばかりでした。彼らのやり方や考え方が、それまでの自分を打ちこわし(打ちのめし)てくれました。すごくいい経験でした。・・・

私の生い立ちを途中までざっと書き出してみましたが、このように人は誰しも好むと好まざるとに関わらず、生きている限り色々な体験や経験をしていくもので、ふとした折にそれを他者に共有してくれる時があります。
語られる言葉があり、その裏には必ず、そこで語られることのなかった言葉と、言葉以前の何かがあるように感じています。

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これは「死ぬ時に思い出したいこと」フォルダです。
中身はタイトルの通り、死ぬ時に自分が思い出したいエピソードが入っています。
説明しやすいように今これはパソコンのデスクトップに作りましたが、実際はどこにあるかというと、心の中にあるHDDです。

人は死ぬときに走馬灯を見ると言います。これまでにあった人生の出来事がまるで映画のように写し出され、方丈記の水の泡よろしく浮かんでは消え、浮かんでは消えていくのだろうと想像されます。
その話を聞いた時ふと、私が死ぬ時に写し出されるのは一体どんな光景なのだろう、という疑問が浮かびました。

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「死ぬ時に思い出したいこと」フォルダに入っているエピソードというのは、言ってしまえば「生きている間忘れたくないこと」でもあります。どんなに覚えておきたいと思った事でも完全な形でそのまま記憶しておくことは不可能です。少しずつ、しかし確実に忘れていっているという事をふとした時に実感します。

今回の連載では、この「死ぬ時に思い出したいこと」フォルダの中からいくつかのエピソードを選んで書いていきたいと思っています。まだ20数年しか生きていない身ではありますが、だからこそ覚えているうちに書いておきたいと思ったことも理由です。

また、私が撮っている写真についてこれまであまり文章でまとめてこなかったのですが、これについてもお話できたらなと考えています。

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毎週月曜日、19時に更新します。お時間のあるときに良かったらお越しください。
感想など聞かせていただけるととても嬉しいです。
では、これから2ヶ月間、どうぞよろしくお願いします。

モク

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moku
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感想をお寄せください(匿名可):https://odaibako.net/u/mokupeanuts

モク

モク

born in 1994, photography

Reviewed by
kuma

もし自分が今日死んでしまうとして、そのとき何を思い出すのか、何を「思い出したい」のか。走馬灯とは存在の始まりから終わりに至るまで、絶えず揺らぎ変容し続けているのだと気づく。

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