当番ノート 第40期
ハッピーエンドがいい。 めでたしめでたし、とか、その後2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、とか。 そんなふうに終わる物語なら、私は「シンデレラ」が一番好き。別にお姫様になりたいわけでも、今の暮らしに手を差し伸べてくれる白馬の王子と出逢いたい訳でもないけれど、わかりやすく幸せだし、何よりガラスの靴というモチーフが好きだ。 わたしはまだ20年とおまけの4年くらいしか生きていないけれど、それでも「め…
長期滞在者
世界が素晴らしいと思えないときがある。 人生にはいろいろなことがあるから、それは別に不自然なことではないと思う。 ただ自分を少し見つめ直すだけだ。 ぼんやりとした私は生活の営みを通してぐいぐいと現実に引き戻される。 だから私は家にいるとほっとするのだ。 8月1日(水) 洗濯物を取り込んでいたら羽虫が入ってきて天井に張り付いてしまった。私は椅子に乗っても天井に手が届かないので、部屋にいた昴君を無理や…
当番ノート 第40期
タイトルの「農業と芸術の交歓」から、思い浮かぶのは宮沢賢治かもしれません。仏教信仰と農民としての生活を起点に創作を続けた彼は、『注文の多い料理店』や『アメニモマケズ』など後世に残る芸術作品を生み出しました。一方で宮沢は1920年に国柱会へ入信します。その国柱会は戦前の国家主義を牽引する八紘一宇思想の形成とも絡み、その後の太平洋戦争へと連なっていきます。ただ留意しなければならないのは、八紘一宇という…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
インドの友人、ソナルの家族は彼女の婚約者、前夫との長女、ミャンマーから養子に迎えられた次女、叔母さんの4人家族。そこに住み込みの若いメイドさんふたりとシッターの中年女性、心優しいけれどやや天然なドライバーが加わると8人家族。今回はソナルの叔母さん、ディディのことをお話しよう。 ディディ(インドで年長の女性を慕って呼ぶときの「お姉さん」という意味合いの言葉)は、陽気で優しく、60代とは到底思えないよ…
当番ノート 第40期
7月の半ばに、祖母が亡くなった。 日曜の朝8時過ぎに母から電話を受ける。 「急に心拍数が下がってて、いつどうなってもおかしくないみたい」とのこと。 こういうときのこういう言葉が持つ緊急性を家族がそろって掴みそこねているあいだに、波が引くみたいに、すーっといなくなってしまった。 まだ元気だった頃(といってももう10年以上前のような気がする)、 祖母はほとんど毎日デパートへ行き、洋服や食器、花器、食材…
お直しカフェ
私はカフェが好きだ。北千住のBUoY(ブイ)というアートセンターの中にあるカフェで月に数回店番をしている。ひょんな繋がりから人生3度目となるカフェ開業、構想や内装施工からに立ち会った思い入れのある店だ。元銭湯とボーリング場という廃墟同然だった場所を最低限の手直しで劇場やカフェにした、ヘンテコな場所。 私が店番をしていて好きなのは、一日中その場所のことを考え、整えながら、誰かがやって来たらその一角を…
当番ノート 第40期
しゃ・しん【写真】 ①ありのままを写しとること。 また、その写しとった像。写生。写実。 ②物体の像、または電磁波・粒子線のパターンを、 物理・化学的手段により、フィルム・紙などの上に 目に見える形として記録すること。 また、その記録されたもの。 たいしょう・じっけん【対照実験】 ある対象について 一定の因子の作用を明らかにする実験を行う場合、 これと別に、その因子を取り除き それ以外は全く同一条件…
当番ノート 第40期
赤信号になりそうなとき急げない子どもだった。 もちろん安全を考えたら走らないほうがいいのだけど、 なんだかいつも必死になれない自分を、少しずつコンプレックスに感じはじめた。 同じくらいのときから、薬も嫌いだった。 この小さな錠剤がどうかしてくれるとはとても思えなかったし、 薬を飲んで元気になることより、発熱や注射をがまんして、なんでもないように振る舞って皆に驚かれる方が好きだった。 体調を崩したり…
当番ノート 第40期
音のない海に潜る。 重力に身を任せながら、引き換えしようのないところまで、潜る。 自我さえない深海で、研ぎ澄まされた思考だけが光のように駆け巡る。 目が醒めるように、魔法がとけるように、ふっと海から顔を上げると、そこには元通りの時間の流れがある。日常。浦島太郎のような気持ちで、想像より幾分か周回の多い時計を見る。 どこまでも集中しているとき、私はどこでもないどこかにいる。だれでもないだれかになる。…
長期滞在者
大学の後輩が某航空会社で CAをやっていて、 ブリュッセルに来るというので、 20数年ぶりに会って食事をした。 当時から人付き合いの苦手だったぼくは その後輩ともあまり話したことはなかったのだけど、 会ってみると意外と覚えていることもあるもので、 危惧していたほど会話に困ることはなかった。 西洋舞踊専攻のコースに在籍していたぼくたちは、 それぞれ踊ることはあまりなくなっているけど、 やはりその大学…
当番ノート 第40期
8月24日から福岡の奥八女・笠原地区に滞在しています。ここで農業と芸術をつなげ、笠原という土地を捉え直すプロジェクトに参加しています。お米づくりを中心とした農業に従事しながら、新たな芸能を地元住民の方々、またこのプロジェクトの参加者とともに生み出す試みです。 ここでまた「芸術」と「芸能」というこの連載におけるキーワードが出てきました。前回は「『踊り念仏』から芸術と芸能の違いを見出す」とお伝えして結…
当番ノート 第40期
こんばんは。 突然ですけど、今晩お時間空いてます? 一緒に行きたいところがあるんですけど。 え?いやいや、美術館じゃなくて。映画館でもありません。 勘弁してくださいよ。すばらしき鑑賞体験てのは、美術館や映画館だけのものじゃないんですから。 今日は「CHAKRA」っていう南インド料理屋さんで、ミールスでも食べましょう。 今泉の、上人橋通りを少し東に入ったところにある、不思議なカレー屋さんです。 **…