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2F/当番ノート

よれよれ観たもん放浪記(5)チャクラのミールスは天人の音楽

当番ノート 第40期

こんばんは。
突然ですけど、今晩お時間空いてます?
一緒に行きたいところがあるんですけど。
え?いやいや、美術館じゃなくて。映画館でもありません。
勘弁してくださいよ。すばらしき鑑賞体験てのは、美術館や映画館だけのものじゃないんですから。
今日は「CHAKRA」っていう南インド料理屋さんで、ミールスでも食べましょう。
今泉の、上人橋通りを少し東に入ったところにある、不思議なカレー屋さんです。

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ミールスとは、インドの南部では一般的な定食のようなもののこと。
細長いさらさらしたお米と、約4~5種類の野菜&スパイスのスープやカレー、いくつかの副菜、薬味、ふりかけみたいなものを、大きくて平たいバナナの葉あるいは銀色のお皿のうえでまぜまぜして食べる。

お米とスープ&副菜の組み合わせという点以外はこれといって守らなければいけない掟がないらしく、現地の食堂なんかも各々がオリジナルスタイルで提供しているそう。
正統派というものがないぶん、いろんなお店へ足を運び、ああこの店はこうきたか、とかなんとか膝を打ちながら、お気に入りの一品を見つける遊びを楽しむことができる。

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さて、せっかくCHAKRAに行くのなら、ぜひとも「手食」に挑戦してほしいところです。
手食というのは読んで字のごとく、スプーンを使わずに右手でカレーとライスを混ぜてそのまま口へ運ぶという食べ方。
初めての方には多少勇気がいるかもしれないけれど、やってみるとこれがなかなかおもしろい。

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「当店は手食を推進しています!
嘘のようですがスプーンで食べるより美味しく感じるのにはびっくりです!やはり五感を使うからでしょうかね?」

太字+赤ライン。推奨ではなく「推進」。
推して進めているだけあって、手食を選ぶともれなくタンドリーチキンがついてくる。
このタンドリーチキンがまたすごくおいしんです。
今まで他のお店で食べてきたものと違って、ふっくら、しっとり。
店主へ聞いたところ、インドでは衛生上鶏にいやというほど火を通すのが主流だけれど、それだと肉がパサついてしまうのであえて日本人の好みに合わせてやわらかく仕上げてるんすよ(ニヤ)とのこと。
こちらをいただけるだけでも、手食を選んで大正解。

ではフィンガーボウルでしっかり右手を洗って。
まずはカトリ(カレーが入った小さい器)を取り出し、人差し指と中指でお米を皿のように広げる。その上に、パパド(おせんべいみたいなもの)を砕いてパラパラ。
次にお米の上にラッサム(トマトベースのスープ)やサンバル、豆やノンベジカレー、それと少しのチャトニ(薬味・タレみたいなもの)、ポディ(豆の粉のふりかけ)などを少しずつかけ、指の腹を使ってさっさっと混ぜる。
いい塩梅になってきたら、そのまま人差し指、中指、そっと添えた薬指ので小さく掬って形を整え、親指で押し出すように口の中へ。
たしかにスプーンで食べる時と違って、カレーが舌の先から喉までまんべんなく移動していく気がする。
そのぶん、味の変化をじっくり感じることができるのかもしれない。
ほどよい温度の液体に手を突っ込んでまぜまぜする。指先が上唇の真ん中の裏側あたりに当たって、少しめくれる。指についたカレーをさらりと舐めとる。
ひとつひとつの仕草が、普段食事のときには使わないような感覚に満ちていてどきりとする。

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CHAKRAの場合、カレーやラッサム、サンバルなど、一つ一つは自己主張がそこまで強いわけじゃない。
けれど、お米の上で混ざりあい、さらにそこにチャトニやポディがアクセントをつけることで、複雑なバリエーションが生まれていく。しかもそれが、音楽でも聴いているかのように、時間を経て展開していくのだ。うう、うつくしい。

とくにCHAKRAの美味しさの秘密のうちの一つは、間違いなくチャトニにあると思う。
東京と福岡で何店舗かミールスを食べてまわったけれど、だいたいチャトニはあっても1種類。
それをここはココナッツ・グリーン・ハバネロの3種類も惜しみなく提供してくれる。
チャトニにかける店主の愛と気迫たるや。
3チャトニーズと名付けられた彼らが、混ざりつつあるカレーたちのもとへふらりとやってきて「あ、そういう組み合わせもあるんだ〜」とか「おお、君たちなんだかいい感じだねえ」とか言うように、味の関わりあいの可能性をあますところなく引き出してくれている。言うなれば、チャトニは天使ですよ。天使。

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さらに恐ろしいことに、今お口の中に広がっている色とりどりの美味しさは、一度喉を通ってしまうと、もう二度と会うことはできない。
今この瞬間の多幸感と、それがもうすぐ終わってしまう切なさ。
そして次の一口がもたらしてくれるであろうまったく別の豊かさへの期待が、体の中でびかびかと明滅する。

この感覚にいちばん近かったのはなにかしら。
記憶をたどっていくと、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」でのラストシーンが浮かんだ。(※)
美しい羽衣を纏った天人たちが、ぞっとするほど朗らかな音楽をテンテケテンと奏でながら、列をなしてやってくる。
使いの者が花びらのようにひらひら舞い、部屋のしつらえや里の景色を模して作った庭を明るく照らす。
童たちの歌とともに、地上での暮らしがいきいきとよみがえる。
しかし「その時」が来てしまうと、人々の思いもむなしく、天人たちは容赦なく姫を“あちら側”へと連れ去っていってしまう。
彩りを失ったかぐや姫の背後に、そっと、地上に生きることを肯定するかのように映る、赤んぼうの姿。

それが一口一口、えんえんリピート再生される感じ、といったらなんとなくイメージしてもらえるかしら。
いよいよ頭がおかしくなったとお思いでしょう。私もそう思う。
でもちょっとくらいおかしくなっても仕方ないくらい、CHAKRAのミールスはいつもは眠っている感覚がパチパチとつながっていくような気がする。
これは、美術館や映画館ではなかなか体験できない。

こういうことを、あなたと一緒に楽しんでいきたいもんです。

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CHAKRA(チャクラ)
福岡市中央区今泉2丁目4-4   
月~金:11時~15時/17時~21時
土祝日:12時~21時
日曜定休
「ミールス専門店に普通のカレーはない」という貼り紙が目印。

(※)「かぐや姫の物語」高畑勲監督、2013年公開。
未見の方はぜひ観ていただきたい、大傑作アニメーション。
ちなみにラストシーンに関しては、某ニコニコ動画にUPされてました…。

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美術や映画から観てかんがえること

Reviewed by
柊 有花

手食を「推進」するカレー屋に入り、手を使って口に運ぶその行為は感覚の発見に満ちている。食べることがすばらしい鑑賞体験となるという言葉に納得した。

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