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2F/当番ノート

よれよれ観たもん放浪記(4)宇宙から眺める革命

当番ノート 第40期

しばらく会っていないあいだに、友達が革命家になっていた。
自身に起きたある腹だたしい仕打ちと、彼女や私たちの周りをもやのように取り巻く理不尽な空気に対して、彼女はきわめてはっきりと怒っていた。そして、その火を絶やさないことを生き方として選択したらしい。最近できたという新しい恋人に、付き合う前に「私革命家だけど、あなた革命家と付き合う覚悟あんの?」とかさらりと言ってのけたりして、しびれる。

ところで2018年における革命って、どういうかたちなら可能なのかしら。だって私たちの生きる社会って日々複雑かつカラフルになっててさあ、戦うべき敵みたいなものの輪郭もまた曖昧で、もはや敵/味方という区別すらあまり意味をなさないわけで。大きな手強い敵に一丸となって立ち向かうよりも、ばらばらな私たちがばらばらなままで革命していくことのほうが、難しいわよ、ねえ〜。

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そんな話をしながら改めて、ワタリウム美術館で開催中の「理由なき反抗展」のことを思い出した。

”2018年、蔓延る情報操作、得体のしれない都合、無理ある理由付は、社会に不自由をもたらした。この不条理で不安な状況と対峙し、不自由と闘うために、今、どれほどの理由が必要なのか。”

反抗という、今日本で一番扱いが難しい言葉の一つを抱えた展覧会はこんなステイトメントで始まる。展示は「第1章:レジスタンス<抵抗>」「第2章:デザイン革命」「第3章:理由なき反抗」の3章構成になっていて、社会や政治に対する芸術・デザインからのアプローチが提示されている。
とりわけ2018年の革命にとって示唆に富んでいるなと思ったのが、第2章で取り上げられていたバックミンスター・フラー(1895-1983)。最近では課題解決の方法として定着しつつあるデザイン的なアプローチみたいなものを、フラー先生は約90年前から地球規模で考え、建築や科学技術や思想など学問の領域を飛び越えながら実践し続けた。

fuller
ポートフォリオ「一つを巡る十二の発明」より 1981 年 シルクスクリーン 76.2×101.6cm

略歴や彼が構想したモノたちのポートフォリオは会場で実際に見ていただくとして。
ひときわ異様な光を放っていたレクチャーの記録映像(1982)では、フラー先生が約30分にわたって人類の未来と自分の信念について語る。ものすごくざっくりまとめると下記のような感じ。

(1)人間というのはいい発明である
(2)世界で起こっているよからぬことは、物ごとがうまく“機能”していないからである
(3)人類が地球をうまく“機能”させることができれば、飢えだの戦争だの、地球上のお困りごとは解決する

彼の主張の中に含まれるデザイン的なアプローチの仕方については、専門分野で活躍している人たちがきっとずっと言ってきたことなんだろう。デザイン思考という言葉が一般化しつつある昨今、方法論についてはおそらくビジネス書でもワークショップでも、いたる所で学ぶことができる。実際にそのプロセスを実践している素敵なコミュニティもどんどん増えてきているわけだし。
身近な実践者と出会える2018年に、あえてフラー先生のレクチャーに触れたほうがいいなんて申し上げている理由はどこにあるか。これはもうなんというか、先生が「宇宙に連れてってくれるから」の一点としか言いようがない。

彼は自分の論理をまるで小学2年生でも理解できることかのように話す。「1たす1は2でしょう、2が3つあったら6で、6が3つなら18だよねえ」といった風に。
その一文一文にほう、ふむ、なるほど、と相槌をうっていくうちに、搭乗案内開始。アナウンスに従って聴衆がぞろぞろと歩き出し、宇宙船の搭乗口へ向かう。一人ずつ順番にゲートを通って、気づけばスリー、ツー、ワーンでドーン、宇宙旅行のはじまりはじまり。ごうごうと音を立てて地球から離れているにもかかわらず、フラー先生の話があまりに面白いもんだからみんな夢中で気づかない。そうしていつのまにか私たちは自分が立っていた地面を離れ、はるか宇宙を漂っているのだ。
フラー先生と一緒に外側から地球を眺めていると、人類には敵も味方もない。いまひとつ機能していない現状と、これからよりよく機能するはずの未来が見える。人類がやるべきことは、その二つを、知性と道具を駆使してうまいこと繋げていくことだけだ。思いがけず視点がぐーんと上に上にのぼっていって、人類というよい発明品を遠くから見守っているような感覚は、デザイン思考の講義だけではなかなか味わえない。
下記に、少し長いけれど先生の言葉を引用。

“人間が進んだテクノロジーを作り出すのは恐怖を抱いたときなんですね
敵が攻めてくるなら いくらお金がかかっても技術があれば兵器を作り出そうとします
……
今までいいものを作りだしてきたのは悪い目的のためでした
でも私はいいものをいい目的のために作りたいのです”

もしもフラー先生が、戦争や環境破壊、あるいはそれを生み出す社会を糾弾する立場からこう語っていたとしたら、この宇宙的な感覚は生まれていなかったはず。権力や金儲けを優先する憂鬱な世界のあり方に対して、先生は怒れる当事者でもなく、立ち上がる反抗者でもなく、ただ宇宙からのメッセージを信じ「人類の物理的成功を請け負」う一人として、世界の設計に取り組んだ。まっすぐに、したたかに。

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2018年における私たちの革命のかたちを思い描くことは、やっぱりなかなか難しい。けれど、フラー先生が見せてくれた「宇宙に立脚する」姿勢は、敵/味方、当事者/傍観者とかいったあやふやな区別を飛び超えたところから、自分(たち)が今立っている場所について考えさせてくれる。
革命は、そういうところから始めてみてもいいのかもしれないね。

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<追記1>
革命家のお友達とはモデル・俳優の森陽里ちゃん。しなやかかつ健やかな体で、道ゆく人を虜にしてます。
彼女が書く文章もとても素敵なので、気になる方はぜひリンクをチェックしてみて下さいませ。

<追記2>
今回ご紹介した展覧会は下記。会期は明日まで!
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理由なき反抗 展
I LOVE ART 14
2018年4月7日(土)- 8月26日(日)
休館日:月曜日
開館時間:11時より19時まで(毎週水曜日は21時まで延長)
入館料:大人 1,000円 / 学生(25歳以下) 800円 
会場:ワタリウム美術館
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-7-6
Tel:03-3402-3001 http://www.watarium.co.jp
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kie_oku

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美術や映画から観てかんがえること

Reviewed by
柊 有花

冒頭の革命家になった友達のあげる真っ赤な気炎と、そのご紹介されるバックミンスター・フラーが連れ出す宇宙の青。一見、青は冷たいけれど、青い炎は赤い炎よりも熱い。

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