長期滞在者
わたしは服をつくるのが好きだ。事実、日常的に身につけているワンピースは、すべてミシンを踏んでつくったものだ。服をつくると、心底楽しいし、わくわくする。服をつくる前の工程も楽しい。何色の、どんな布で作るか、どんなアレンジをしようか、どんな風にしたらより似合うものになるのか、考えを巡らせることは、なんとも言えない幸福感を与えてくれる。 それに、自分自身の技術が少しずつ上達していくのがわかるし、自分にと…
メニハ ミエヌトモ
シュトレンを作る季節がやってきた。 我が家はキリスト教ではないけれど、クリスマスを待ちわびて1日一切れのシュトレンを食べる、という行為が大好きだ。 娘が通っていた幼稚園がたまたまカトリックの幼稚園だったのだけれど、その時にクリスマスがどれほどキリスト教にとって大切な行事なのかを垣間見る事が出来た。 12月に入ると毎日家でもお祈りをして下さい、とキャンドルとお祈りの言葉が渡され、(残念ながら我が家で…
当番ノート 第41期
旅の途中だなと思う ヨーロッパに来て10年近くになる でもずっと旅を続けているような感覚だ ベルリン リスボン マデイラ島 チェスケーブデヨビチェ コンスタンツァ 次はどこへ行こう ベルリン 何かが生まれるような雰囲気の街だった リスボン そこにいるだけでワクワクする場所だった マデイラ島 いつも隣に海があった チェスケーブデヨビチェ 大事な友人ができた コンスタンツァ 何かを探している途中
当番ノート 第41期
東京生まれ東京育ちということが、ずっとコンプレックスだった。 こんなことを書くと、何を贅沢な、と思う人もいるかもしれない。でも実際にそうなのだ。 わたしが2歳から23歳までを過ごした家は、東京のなかでは郊外に当たる町田にあったということも、多少は影響しているだろう。書評家をしているわたしの友人が、かつてこう言ったことがある。 「世の中には、田舎に縛られている田舎者と、田舎を捨てて根を持たなくなった…
ギャラリー・カラバコ
今日の満月は雲の向こうに蒼く見えている。 あんなに高いところにある雲は、氷の粒だろう。 うっすら透けた月は甲殻類の背中みたいだ。 月にはうさぎがいるというけれど、そこには何が書いてあるのか。 昔のひとはその模様を読み取って、未来のことを占ったのではなかったか。 いや、それは亀だったかもしれない。 夜気を拭い取るように、ギャラリーの扉を開けた。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『…
長期滞在者
若い頃自分に期待していたようには、どうやら僕の感覚というのは鋭敏でも特殊でもなくて、きわめて凡庸なものであるということを悟った(ようやく最近 笑)のだが、きわめて普通の人間である僕が、写真みたいなものを撮る意味があるのだろうかと自問したときに、凡庸であるということは、実はけっこう写真にとって必要なものではないかと気づいたのである。 僕がキレッキレに鋭敏で奇矯で天才的な感覚の持ち主であったとして、そ…
長期滞在者
UNHCRの首席報道官のメリッサ・フレミングが来日した。 彼女はこれまでTEDに出演し、 2014年に「ただ生き残るだけではなく、難民が豊かに生きる手助けを」、 2015年には「500人の難民を乗せた船が海に沈んだ―2人の生存者の物語」を語った。 2018年11月14日、彼女の話を直接聴くことができる機会に呼んで頂いた。 この時に話してくれたストーリーは、シリア難民の19歳の女性、ドーハの物語だっ…
長期滞在者
雨が降りだすときの感じが好きだ。さーっと空気がざわざわしたような気がして、ちょっと遅れて匂いがやってくる。夏には湿気の帯が、秋や冬には冷気のかたまりが、雨と一緒に現れる。傘を持っているときには地面を見下ろし、持っていないときには雲に覆われた空を見上げ、降ってきたか……ともう一度、自分に言い聞かせるように、思う。 なかでも特に、熱帯の森にスコールが降るときには、いつもうっとりしてしまう。早朝、調査小…
当番ノート 第41期
舞台後 頂いた花を楽屋に置いてきてしまった その後バーに行き バーの店員さんに花束をもらった 忘れた花を届けられたよう 今日は久しぶりのロミオとジュリエットの娼婦役 いつも演じるのがとても楽しい 辛子色の衣装もお気に入り 髪型 化粧をしながら段々自分じゃなくなっていく 今日舞台を楽しめなかったら引退しようかというアイディアが踊る前に浮かんだ でも今日も舞台で楽しさを見つけた そして二階席まで満員の…
長期滞在者
若い頃、何が面白いのか分からなかった写真たちが、ずっと後になってその仕事のすごさに気付かされたりすることがあります。視覚的なエフェクトであるとか、芸術論か何かの引用や焼き直しのようなものではなく、ただその時々の出来事に居合わせるような写真に心が動きます。「表現する」という言葉の印象とはまるで正反対の感もありますが写真表現の真骨頂とは、みつめることを絶えず積み上げていくことだと、近頃強く思います。 …
当番ノート 第41期
電車を使って大阪から京都に向かうとすれば、選択肢は3つあって、阪急か京阪、それかJRで行くことになる。 このうち、京阪は始発駅の淀屋橋からずっと淀川をまたがずに敷設されているが、阪急とJRは梅田駅(大阪駅)を出て早々に淀川を越える。淀川を挟んで、3路線の線路はきょうだいのように並んで走っている。ちょうど、背骨の両脇に太くて大きい筋肉があるように。 淀川は琵琶湖を水源とし、瀬田川、宇治川と名前を変え…
メニハ ミエヌトモ
秋の季節は嬉しさがこみ上げる。 特に柿が店頭に並び始めると、梅の時期同様にソワソワし始めるのだけれど、 梅の時期と違うのは「見切り品」に柿の袋が置かれるのを待つ、と言う所だ。 そう、私が柿を見てソワソワするのは「柿酢」をつくるため(笑)。 本当は庭に植えられているような柿がベストで、ラッキーな年は 知人から沢山頂いたりするのだが、それが無い時は見切り品の柿をひらすら狙う。 柿酢には、食べられない程…