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006 刺繍

ギャラリー・カラバコ

今日の満月は雲の向こうに蒼く見えている。
あんなに高いところにある雲は、氷の粒だろう。
うっすら透けた月は甲殻類の背中みたいだ。
月にはうさぎがいるというけれど、そこには何が書いてあるのか。
昔のひとはその模様を読み取って、未来のことを占ったのではなかったか。
いや、それは亀だったかもしれない。

夜気を拭い取るように、ギャラリーの扉を開けた。

〈前回までの展示〉
『縫い目』
『つむじ』
『鏡』
『耳鳴り』
『植物園』


「刺繍」

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絵: 古林希望

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文: カマウチヒデキ

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共通のタイトルだけを手がかりに2人の作家が絵と小説を別々に制作し、掛け合わせていく企画「ギャラリー・カラバコ」。
次の満月の日をお楽しみに。

Exposition Past              :Exposition Upcoming
01 桟橋                  :Getting Ready….
02 物差し
03 帯
04 時化
05 吃り
06 影絵
07 隠者
08 ウミネコ
09 うぶすな
10 蟹
「ギャラリー・カラバコ」あとがき対談 2017

古林 希望

古林 希望

絵描き

私が作品を制作するあたって 
もっとも意識しているのは「重なり」の作業です。

鉛筆で点を打ったモノクロの世界、意識と無意識の間で滲み 撥ね 広がっていく色彩の世界、破いて捲った和紙の穴が膨らみ交差する世界、上辺を金色の連なりが交差し 漂う それぞれテクスチャの違う世界が表からも裏からも幾重にも重なり、層となり、ひとつの作品を形作っています。

私たちはみんな同じひとつの人間という「もの」であるにすぎず、表面から見えるものはさほどの違いはありません。
「個」の存在に導くのは 私たちひとりひとりが経験してきた数え切れない「こと」を「あいだ」がつなぎ 内包し 重なりあうことで「個」の存在が導かれるのだと思います。

私の作品は一本の木のようなものです。
ただし木の幹の太さや 生い茂る緑 そこに集う鳥たちを見てほしいのではありません。その木の年輪を、木の内側の重なりを感じて欲しいのです。

カマウチヒデキ

カマウチヒデキ

写真を撮る人。200字小説を書く人。自転車が好きな人。

Reviewed by
朝弘 佳央理

一回目のお題が「縫い目」であったので、それとどういう違いをおふたりが出してくるのかが楽しみだった。
古林さんは絵を絵で刺繍するような立体的に剥離したような作品だし、いっぽうカマウチさんの文章は臭うような時間、読んだあとに手がべっとりとしているんじゃないかと思うほどの濃密な感触を残す。
だけどちょっと俯瞰してみると、古林さんの絵はそれぞれの層を通して見た時にからだの芯に粘性の風が渦巻くし、カマウチさんの文章はからだの表面にざわざわを残しながらもおとぎ話のように浮遊してしまう。

「ギャラリー・カラバコ」が面白いと思うのは、タイトル以外はすり合わせ作業のないおふたりの出し合ったものから、それを見る者がなにかしら呼応関係を見出すことができるということだ。
そして、カマウチさんならカマウチさん、古林さんなら古林さんの作品だけを通して見てもそこに積み上がってくる感触があり、また今回のカマウチさんの作品と、過去の古林さんの作品との、そしてその逆の呼応も、ここにはある。
過去の感触を縫いとった糸のいくつかは表に現れ、いくつかは深層に潜っていきながら、物語が交差してゆく。
もっとも、それを行っているのは作品を読み解こうとする私たちでもある。

また来月、あなたのポストに鍵が届きます。
満月の夜をお楽しみに。

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