当番ノート 第55期
ずっと、なにか決定的な書き出しを探している。 それは永遠に手に入らない青い鳥のようなもので、ときどき、酔っぱらったときとか走っているときとか風呂に浮かんでいるときとかに、ぼわんと影を見せる。これはっ! と羽をつまんでばばっとスマホにその片言を記しても、身体の紅潮がさめたあと、メモアプリに残された言葉からは結局何も始まらない。 ・ ・ ・ 小さいときから書くことが好きだった。好きだと思いすぎて、「書…
当番ノート 第55期
貧困なんて遠い世界のお話だったタワーマンション育ちの私は、現在顔馴染みの警備員の代わりにクモが玄関先の天井から挨拶してくれる木造アパートに住んでいる。 ミネラルウォーターを買うのが怖いのでケトルでお湯を沸かして、100均で買ってきた水差しに注ぎ、冷蔵庫で冷やす。引っ越してからしばらくはケトルなんて文化的なものもなく、鍋で沸騰させていた。3日も経てば完全にその味に飽き、白湯が甘いなんて大嘘だ、そんな…
当番ノート 第55期
何気なく放った言葉も、ふと目があったお散歩中の犬も、受け取り方が難しかった出来事も、生きることについて考えてみた日も、ただお茶が美味しかった瞬間も、ぜんぶぜんぶ「角度」をもっている。 そのときの自分に”それ”がどんな角度をもって入ってきたのか、そのときも、振り返っても、なかなかわからないものなのかもしれない。鋭い角度だと感じたことも、何かと混ざってクロスステッチみたいに新しい模様を描くのかもしれな…