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2F/当番ノート

散策のすすめ

当番ノート 第1期

徒歩や自転車によって散策をすることは最も大きなよろこびの一つです。
心と体の波長に合わせてゆったりと行くその只中にあっては、五感の全てを活かすことができます。空のもとで道を進むにつれて現れる家々や草樹や山河を眺めながら土や花の匂いを吸いこみ、人の暮らす声や物音、葉のすれ合う音や虫の羽音や水の流れる音を聴き、空気を味わい、そこにいる動物や静物の一つ一つと直に触れ合える。そして、それらを存分に実感するための、苦もなく引き返すことや立ち止まることができるという行動選択の自由もあるのです。

ところで、遠出や旅行をするなかでの散策が特に充実するのは大いに新鮮味のある初めての、もしくは普段と異なるその環境において、心身を集中させて足を進めつつ周りの事物を観察する姿勢を自ずと得られるからではないかと思います。
それがたのしいことは言うまでもないように思われますが、ここで記したいのは近所を散策するたのしさです。

さて、遠出や旅行におけるそれの充足の要因に鑑みると、近所での散策をたのしむためにも同様の新鮮な気持ちと姿勢をもつことが必要に思われます。しかし、その実現はさほど困難ではありません。
まず、自宅から徒歩10分圏内の近場の散歩であっても、選べる道すじは数多くあります。そのなかにある全ての道の様子を把握しているかと訊かれれば、どれだけ長く住んでいるところであっても完全にそうだと断言することは難しい。だから、新しい事物と出会える可能性がより大きくなるよう道のりを工夫するだけでも、上記の実現はほとんど達せられると言っても過言ではないでしょう。
そのうえ、連載の初回でも記したとおり、例え散策する道が同じであっても、時間によって季節によって天候によって発見のないときはない。そして、その事実は近所での散策が一定の場所やそこにあるものの移り変わり、加えてそれらの新たな側面を知る絶好の機会となることを示すのです。

最後に、そういった散策によって発見した美しい、あるいは不思議な景色の写真を下に載せます。
写真と関係のあるものもないものも合わせて列挙すると、どこか懐かしさを覚える急な坂道があり、住宅街にあるとは思えない立派な巨樹が現れ、奥へ進まずにはいられない暗がりになった小道があり、公園でも何でもない道路に突如として滑り台が出現し、空を広く見渡せるビルの屋上を見つけ、ふと植物の姿や地面や空に目を留めると大小様々な生き物たちが活動している…安らぎを覚える慣れ親しんだものから意表を突かれる奇妙なものまで、本当に多くの事物や変化に富んでいるのです。
そういったものごとといくつもいくつも出会い、よろこびと驚きに満ち満ちた永遠のように緩やかな時間を近所の散策によって体験できます。未知を開拓しつつ既知を広げ深める、すばらしい道程と実りを得られるそんな散策をみなさんにおすすめします。

中島弘貴

中島弘貴

1983年生まれ、東京都在住。多様なものごとと関わりながら世界を広げて深める。文筆、音楽、絵、写真をしている。芸術全般、自然科学への関心が強い。

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