はっきりいって、石油王は鳥が大好きでしたから、
鳥が家来をツンツンとついばむ「ついばみの刑」で、
鳥が動き回ったり飛び回ったり鳴いたりする様子をみるのも大好きでした。
だから毎日でも家来のことを「ついばみの刑」にしたいぐらいだったのです。
なにかしっぱいをしてくれないかと、いつもさがしていたのです。
でもなんだか今日は、「懲らしめてやる!」のことばが家来に届かないようです。
石油王がおこればおこるほど、声はどこかに吸い込まれるように小さくなって消えてしまいます。
はじめはぽかんとしていた家来たちですが、
王様が声もたてずにおこっている姿がおかしくて、
「わっはっは!これはおかしい。ふしぎなことも、あるものだ」
と笑い始めました。
「家来のくせに、わしを見てわらうとは、何事だ!こらしめてやる!」
それでも声は届きません。
鳥が石油王のことばを口に入れては、
ぺっぺっと吐き出しているから、王様の声が届かないのです。
王様の怒りがおさまらないから、鳥はことばを食べてはどんどん吐き出しています。
鳥の周りには石油王のことばがつばまみれになって積み上っていきました。
そのうち、つばまみれの言葉で鳥の姿もみえなくなってしまいました。
それでも石油王の怒りはおさまりません。
つばまみれのことばの山は王様のすぐ背後までせまってきました。
王様は怒ることをやめません。
どうしてもついばみの刑が見たいからです。
「うぬう、こしゃくな! ついばみの刑がみたい・・・じゃなくて、
あんなきもちわるい鳥がリオンにうっているとわしに知らせた家来を、懲らしめてやる!」
その言葉も鳥が加えて、のみこみ、ぺっとはきだしました。
その吐き出したことばの重みで、山がざざざーとくずれていきました。
「うわあ!」
石油王は、ことばの山に飲み込まれてしまいました。
「た、助けてくれ!」
「あっ、石油王が生き埋めになってしまった!」
ねこや、家来たちはびっくりしてしまいました。
「早く助けてあげなきゃ」
すると、空が突然あかるくなりました。
みんなで空を見上げると、UFOがいるのです。
円盤のような機体から、光線が現れ、石油王を生き埋めにしていることばが
あっという間に焼き払われてしまいました。
つばまみれのことばの山がなくなって、つばまみれの石油王が再び姿を現しました。
「あ、おかあさんだ、やばい」
と石油王はいいました。
UFOの真ん中のドアがあいて、瀬戸内寂聴のような女の人がおりてきました。
その人はこういいました。
「息子よ、もういい加減鳥をあつめるのはおやめなさい。
おかあさんはね、鳥なんかに夢中になって、石油を掘るのをやめてしまうおまえが、情けないのよ。
一番上のお兄さんや、お父さんを見て見なさい。お前みたいな落ちこぼれは、一体全体、ほんとうにわたしが生んだ子なのかしらね」
石油王は悲しそうな顔をしました。目には涙があふれ、ほっぺを伝い始めていました。
ねこも、鳥も、家来も、その涙を今のところは見なかったことにしました。