昼間の捜査を終え、「おいしい島」唯一の温泉宿にチェックインしたねこは、
かにかま、ささみのボイルなどのごちそうをたべて、お腹いっぱいになりました。
せっかくのいいお湯ですが、お風呂は嫌いなので入るのはやめました。
「畳というのは、やっかいだ」としろねこは考えていました。
板の間の壁には、「畳で爪を研がないでください」と筆書きの張り紙がしてありました。
しましまの猫は、畳に前脚が触れた瞬間、ばりばりと爪を研ぎ始めました。
「ねこには無理な相談だ」としろねこは思いました。
窓際に座ってしんとしているくろねこは、真っ暗な窓の外に向けて猫の目ライトをつけたりけしたりしていました。
部屋の呼び鈴が鳴りました。
女将さんです。
「お客様。お昼にお探しになっていた、鳥なんですが。行方がわかりましたよ。
この近所に、最近、アラブの石油王が引っ越してきました。
アラブの石油王は鳥が大好きで、それはそれは大きなお屋敷に、世界中の鳥を集めて飼っているんですよ。
昨日、その石油王がリオンで鳥を買っていったのを見たとうちの従業員が言っていました。
すぐに会いたいでしょうから、タクシーを呼びましょうか」
ねこは、「居場所がわかってるなら急がなくてもいいから見に行くのは明日でもいいんじゃないか」と思いました。
女将さんは「何をのんびりしているんです」とおこり始めました。
ねこは、重い腰をあげ、出かけることにしました。
徒歩15分ぐらいのところに石油王の家はありました。
屋敷全体がドームのように覆われた網のせいで、鳥たちは逃げられません。
夜中だというのに、たいまつが煌煌と掲げられ、世界中の美しい鳥たちが、広大な庭を自由に歩き回っています。
「きもちわるい鳥はどこだろう」
ねこは、網の破れめをくぐり抜けて庭のなかを探しまわりました。
鳥はすみっこのほうにいました。
ほかの鳥とはずいぶん扱いがちがうようです。
足には鎖がつけられて、ほかの鳥と違って歩き回ったりできません。
鳥は悲しそうな顔をしていました。
屋敷のなかから、人間の大人の大きな声が聞こえてきました。
「あの、きもちわるい鳥は、わしの屋敷の中の、
ダイヤの指輪や、金のブローチや、勲章や、仏壇の位牌
や、先祖の写真や、ほかにもたくさん、大事な宝物を
全部口に入れてツバまみれにしおった! 迷惑な鳥だ!
それに、それに…わしの頭にもかぶりついて、
わしのカツラまで臭いツバまみれだ!
いくら鳥好きのわしでも、さすがにおこったぞ!
明日かあさって、焼いて食べてやる」
ねこは、女将さんにおこられたけど、今日のうちに屋敷にきてよかったと思いました。
明日だと鳥が焼かれて食べられた後だったかもしれないからです。