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2F/当番ノート

知ったつもり

当番ノート 第4期

今年から東京以外の地方都市に直接出かけていって出張展示する「出張ルーニィ 写真へようこそ!」という企画を立上げまして、1月に岡山市に、5月に名古屋市へ出かけました。今東京には80を越える写真ギャラリーが存在し、とりわけぼくのいる新宿~四谷地区は25軒以上も集積する写真の町になっています。しかし、日頃から写真展巡りが楽しめる地域は東京の他には、大阪と京都くらいしかなく、その他の地域には、ほとんど存在しないのが現状です。例えば岡山市は、単館系のミニシアターとか、良質なライブハウス、「ベネッセ」のお膝元だけあって現代美術を扱う画廊もいくつかあります。何より、デニムを中心としたファッションブランドが沢山生まれている町です。いわばアートやファションという知的遊びに大変理解のある土地柄にも関わらず、どうして写真家の新作を味わう場所がないんだろう、と思っていました。
そこで、知的遊びのひとつの選択肢のひとつとして、写真も加えてもらいたい。絵画や版画をコレクションしている方にも直接本物の写真作品というものをご覧に入れて、ぼくが直接その魅力を説明して回る、ということを考えました。うちで扱っている作家さんのプリントを地方の画廊やお店の壁をお借りして展示して、普段東京でやっているのと同じように、自分で在廊してお客様と作品を間にしてコミュニケーションをとりながら、その魅力を語っていくプロジェクトです。

そのパイロット版のような役目として、岡山、名古屋の二カ所を回ったのですが、来場者の反応が大変素晴らしい。うちの取り扱い作家も実際に会場でお客様と接してみて、東京でやるよりも反応がいいですなぁ、なんてことを言うのです。反応の良さは作品のセールスにも表れていて、はっきり申し上げますと、東京で一週間やるよりも地方でやった方が売れているんです。

お客様の様子を見ていますと、まず第一にぼくたちが持ち込んでいる作品にたいして、お客様の予備知識はほぼゼロ。従ってその作品が若手の作品なのか、ベテランの大御所作家なのかの区別無く、純粋に未知の表現に向き合って自分なりの答えを見つけようと熱心に眺めている。聞けば写真展に足を運ぶのも初めてならば、カメラは持っているけれど、何かを表現するツールとして意識した事が無いという方がほとんどで、でも写真にも色々な想いの形があるということが分かって、もっと色々な写真を見てみたい、と熱っぽく話してくれました。名古屋の時は、ぼくが会場に居るときは連日閉店時間を過ぎ、夜の11時半頃まで写真談義に花が咲きました。

昨日、ルーニィに毎週のように顔を出して下さるお客様と、閉館後も夜遅くまでギャラリーでお酒を飲みながらいろいろなことを話しました。ぼくは「豪華有名人から相当無名人まで」分け隔てなく紹介する。というのをギャラリー運営の基本方針としていまして、それがすごい面白いと言って下さいます。毎週のようにルーニィに通い始めたのは、4年くらい前からだそうで、その前は案内状を見て、その作品が好みかどうかとか、知っている作家かどうかとか、そういう判断基準で展覧会は気に入ったものしか観に行かなかったそうです。それが、今では、一ヶ月に100本以上の展覧会を見ていらっしゃるとのこと。週に一回として、一日25軒ハシゴしている、という計算になります。その理由として、有名な人じゃなくても、自分なりに良いと思える作家さんや、作品と出会える事の面白さだといいます。片っ端から見て回るという事は、当然当たりもはずれもあるけれど、それを、予備知識や、案内状の雰囲気とかで判断せずに自分の目で確かめよう、と思ったのだそうです。もし、予備知識で判断していたら、実際に足を運んで面白いと思えたものに出会う機会を自分で無くしてしまっていると思うと、そんなのは嫌だと。

展覧会のパブリシティの重心が新聞や雑誌からここ2年くらいの間にインターネットに傾きつつあります。ネットの世界の情報量、そして配信のスピードは確かにすごいです。来週何を観に行こうと思った時に、パソコンや、スマートフォンで色々な情報が手に入ります。頭の中でそれを並列しながら、どの展覧会に行こうかと慎重に検討する。ネットは便利だと思うし、今や無視していたら自分が発信したいことは、巷に何も回らなくなって、ギャラリーに足を運んで下さる方がどんどん減ってしまうと思うので、ぼくも毎日のようにブログを更新し、フェースブックに投稿し、ツイッターでもつぶやき、毎週メルマガでもコラムを書く、ということをやっています。ただ自分自身がネットで展覧会を回るための情報収集をしているかと言えば、実はそうでもない。
行ってみたい展覧会は、自分の会場やよそのギャラリーの会場に置いてあるハガキ。あとはうちのお客様との会話で、今週見たい展覧会を考えています。DMハガキは、情報量としては小さいけれど、想像力が働きます。タイミングが悪く足を運べなくても形が残るもので、後々までその作家さんのことが気になって仕方がありません。

昔、ギャラリーをまわったり、ライブを聴きに行くのは、みんな「ぴあ」で、文字情報しか載らない小さな欄を端から端まで熟読して、どういう催しなのか想像力を働かせていました。タイトルが気になるから行ってみる、行ってがっかりというのもありますが、良かった事の方が沢山ありました。

今は、と言えばこれは紙もネットも似た様なもので、アートニュースといっても、ギャラリーや作家から出されるプレスリリースを適当にコピペした程度の中途半端な情報(基本的にお客様を誘導する様な、形の整った文言がならんでいる)ばかりが並んでいます。そうなると、記事の扱われ方の大小とは、取材によって得た印象よりも、既存のマーケットでの認知度の大小によって扱われ方が変わるわけです。それらを読んで、作品についてのうす~い情報をつなぎ合わせただけで、もう7割方作品を理解したつもりにでもなっているのか、ちょっと見てアッサリと帰って行く、次の会場へ急げ、みたいな雰囲気のお客様が増えている気がします。

知ったつもりでいるのと、きちんと読み込んで新たな知見を得ることは全然レベルの違うことです。情報が手に入りやすくなるのと引き換えに、自分で考え想像力を働かせたりする機会が明らかに減っています。あらゆる物事に対して何となく知ったつもりになって接してはいないだろうか。と、これは自分への戒めも含めてなんですが。いくつかの情報と想像力そして今までの経験を重ね合わせながら、検証し時には疑ったりして自分なりの言葉を探り出す。これってアート鑑賞だけでなくて、政治の事でも原発の問題でも何でも必要なはずなんですけど、様々なベクトルの情報が交錯しているから、無自覚に全てを受け入れていると自分の立ち位置を見失いがちです。

知ったかぶりは世渡りには便利かもしれないですけど、好きな写真やアートに触れる時くらい、そういうものは全て捨てて真っすぐな気持ちで画面に向き合いたいと思っています。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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