このシリーズは「山」の前作にあたるもので、このシリーズの発展させたものが「山」となります。このシリーズは地球を一つの生命体と捉え、地球を構成する要素としての自然物や人工物を撮影し、それらの写真で構成しています。
数年前、北海道に行った時にアイヌの方とお会いし、一週間程その方のところに滞在させてもらいました。そこには小さなコミュニティーがあり、僕のように流れ着いたものや、そこに身を寄せて住んでいる方など20余りの人々がいました。着いた日から大部屋で泊まらせてもらうことになり、しんと静まり返った真っ暗な夜の中で一人寝ている時、すぐそばに息ずく森の樹々の事を考えていました。以前からそこに滞在していたTくんと話すようになり、そこでの生活の事や、間近に迫った祭りの事について聞きながらしばらく過ごしていたある時、日がな一日何もせずいるのも悪いので、祭り準備を手伝いに行く事にし、Tくんの愛犬ピッケと軽トラックに乗り込み会場へ向かいました。会場は川を見下ろす何もない場所でしたが、イナウと呼ばれる祭具がある箇所に何本も地面に刺さっていたので何故かと聞くと、この祭りの起こりはアイヌの方が先祖のために祈りを捧げていたものが祭りへと変わっていったもので、イナウが刺さっている場所で祈りを捧げるのだと、Tくんは教えてくれました。その日の夜、Tくんたちが祭りで披露する歌と踊りの練習を大部屋でするというので見せてもらう事なりました。女の子がアイヌの伝統的な弓を使った踊りを踊り、皆で車座になって手拍子を混じえて歌を歌いながら夜が更けたのをよく覚えています。その次の朝、時間的な都合もあって別の場所へ向かうため離れる事にしました。そこでの体験に特別な事はありませんでしたが、ただ淡々と毎日を過ごしながら様々なものの生死を見届け、自然と同時にあるという姿勢を見た気がします。この旅行では出発地から目的地へと向かうプロセスの中で、ある種交換可能な誰でもよさを含んだ、自分自身の重要性というものを認識したと考えています。