生まれたときから、女は、女の価値をしっている。
あるいは無自覚にそう振る舞える。
あたしもおそらく知っていた。記憶もないむこうがわですらたぶんそうだった。
女であることを こわく思ったのはいつだっただろう。
こゆびひとつみても、おそろしかった。
おなじ形状であるのに、あの人とあたしは全くちがういきものだ。
みんなとおなじにみえるのに、あの人とあたしの遺伝子は全くちがう。
けれど、母親の遺伝子だけが半分、全く一緒なのだ。こわい。こわいこわいこわい。
母がこわいわけではない。あるいはこわい。
女であることを、うけいれ、あの煩わしさを誇りとして堂々としている人たちがこわい。
そうなってしまうのがこわい。
いつかはあたしも女になることがこわい。
しかし、なのに、ときどき女であることを誇示したくなってしまう自分がこわい。
なにか呪いにかかった気さえする。
ときどき、狂ったように、嫌で嫌でしようがなくなる。
すべてをとっぱらって、ぜんぜんちがう、なんにもない いきものになってしまいたい。
どこか深海の奥へ。なにか目につかない小ささへ。
なんの汚れも手あかも視線もずっととどかない遠いところへ。
性に価値など。数字に価値など。それはいつかは失われてしまうのに。
いまは、赤いスカートを風にゆらしながら歩くことさえ平気でできる。
まえほど女であることも、そうすることも、こわくはなくなった。
「女であることがうれしくなるの」
あるひとはそう言った、けれど、まだ、そうは思えない。
ずっとかみさまのこどもでいたいかった。そう悔やんでばかりいる。